てんかんイヴニングセミナー2020:第一期第三回(2020年2月13日開催)を報告する。今回のテーマは、「てんかん病棟看護ケア2019」である。2019年に退院した382名の患者データの分析から見えてくる、てんかんという病気とてんかん病棟の実情。そして、発作抑制のみに留まらない患者が抱える種々のてんかん問題について、症例を交えて報告した。
まず、てんかん専門病院ベーテル開設から27年間の退院患者数の推移が示された。ベーテルの入院患者数は2005年以降、年間300名を超える状況となっている。2011年以降から急激な増加傾向にあり、計画的治療プログラムの提供は短期入院という短期決戦を強いられる状況となっていることが報告された。
発病年齢は乳児から学童期が半数を占め、10代までに発病する方が69%を占め、ベーテルを訪れる方々のてんかんは、変わらずこどもの病気であることが示された。入院期間は、一週以下、つまり7泊8日のモニタリング入院者が半数を占め、ついで1月以上3ヶ月以下の入院は18%で、初回薬物導入による初期飽和を図る方々であった。元来難治に経過する患者の皆さまを包括的プログラムで支援してきたベーテルが、1月以下の入院主体のベーテルに様変わりしていた。計画的治療プログラム策定は、たかだか1週間の入院期間に強いられる現状となっている。
入院理由については、検査入院が48%、吟味入院が20%、緊急入院が32%であった。緊急入院は122名で、決して少なくない人数を占めた。緊急入院の理由は、発作によるものが多く、122名中70名であった。次に止まっていた発作の再発が29名で緊急入院者の41%を占めており、ベーテルには再発を見せて難治に経過している患者が多いことが分かる。
一方、総退院患者数382名のなかで発作以外に何らかの障害を重複している方は、201名53%おり、身体的障害を合併している人は72名16%、知的障害を合併している人は170名31%、精神障害を合併している人は121名24%、自閉症の診断がある人は52名14%であった。
41床の病棟には、短期の検査入院の方、てんかんに加え障害を重複し難治に経過している方など、年齢層もさまざまで、必要とされる看護は、幅広い知識や技術が必要とされる。
次に、調査対象となった皆さまを、未治療の方、治療が開始されている方、重複障害を抱えた方の3グループに分けて、更に詳細な調査報告がなされた。
未治療の状態で入院してきた方は86名総数中23%で、58%が10代までの発病である。現年齢構成では、86名では20代が最も多く、20名23%で、次に中学、高校生が17名20%であった。未治療者の最大の問題は、てんかんの内部診断を必要とすることであるが、入院期間からみると、1週以下の方が86名中の半数を占め、限られた時間の中でてんかんを診断あるいは除外診断を行う作業が強いられることが分かる。最も重要になるはずの診断作業と初期治療の開始の是非を問われるが、学校を休めない、休ませたくない、仕事を休めないなど、発作病としての病気よりも他の都合の理由が表に立つ。結果として、発作病は深刻に受け止められない方が多い印象となる。発作病の一大特徴である。再発発作で緊急入院となる例の更に詳細な検討が必要となる。
既に治療を受けている人は、296名の77%であった。その現年齢は、20代から40代が多く165名56%を占めた。発病から数年以上治療継続してきた方が多い。入院理由もさまざまで、治療開始してもなかなか薬物の治療効果が上がらず発作が抑制されない方々も少なくなく、薬物治療の再吟味作業のため入院する方が58名20%おられた。脳波異常が明確でないまま治療が継続されている方、発作症状が不明な方、脳波所見がない方、また重い障害を持っている方などだが、発作症状の判断が難しい場合があり、脳波VTR同時終日記録で発作症状を是が非でも確認する必要がある、発作を記録できれば最高、とされる。なお、102名34%の方々が発作などの緊急対応の入院となっていた。
治療再吟味者の処方数は、2剤以上の方が58%、3剤以上が42%であったので、既に難治てんかんの単純すぎる定義にそのまま当てはまることが分かる。治療再吟味者が抱える問題項目から見えてくる第一の優先課題は、当然ながら発作が抑制されていないことであった。
加えるに、治療が長期に渡ることによって、怠薬や自己断薬、発作連発・重積事件、多剤併用化が発生する。また、心理的、精神科的問題が顕現化し、学校でも職場でも適応するのが困難など、種々の問題が出てくる。さらには家庭事情、在宅、年を重ねれば身体の病、単身生活となるなど、拾い上げるべき問題が多種多彩、多様となる。これらが詳細に示された。
自動車免許をお持ちの方の入院は86名23%であった。また、一般就労している方が61名71%であった。正社員としての雇用形態の方は40名47%であった。この61名を更に分析した結果21名34%が緊急入院であった。このうちの4名は、運転中の発作による入院であった。一歩間違えれば大惨事を招く緊急事態と捉えなければならない。7年9年、長い人では13年の発作の完全抑制(平均5年6月)後の再発者が8名38%おられた。精密検査を進めながら、新たな治療方針により、生活全般の見直しを行い、再度社会生活を開始していくことになった。私たち医療者は、突然抱えてしまう重大なてんかん問題の事件に通じ、しっかりと患者管理を継続しなければならないことが分かる。
てんかん看護の基本の教えとなる、Jean・T・Shope先生の著書にあるように、まずは看護師も患者自身もてんかんの闘病生活の心得を知ること、そしててんかん問題を理解し解決に向かうよう導いていく事が看護の基本となる。
てんかん問題には、診断作業中の問題、社会生活上の問題、経済的問題、心理的問題、職業に関する問題、精神科的に抱えた問題がある。問題解決には、1,課題の特定、この項目は入院中だから明確にすることができる問題を特定していくことが、看護師の最大の役割となる。2,問題解決の優先制の決定をすること。3,治療をしっかり受けること。4,経過観察を続けることが手順となる。外来治療だけでは見えてこない問題が、24時間の看護ケア―により一つ一つ解明され解決の糸口が明確になってくる。
最後に症例が報告された。レンノックス・ガストー症候群で難治に経過した。頻回の転倒発作のため外科治療を進められた。初めての精密診断作業と薬物吟味作業の入院となった。約半年後、幸いに発作は完全抑制を得た。ものの、受け入れてくれる施設がなく、一年を超える長期の入院となってしまった。このケースの抱えた問題は、てんかん発作が抑制されていないことはもちろんであったが、発作抑制作業を進めながらでは、同時に社会生活の拠点を探すのが如何に困難であるかが、発作が抑制されてから退院先を探すに半年を要したことから容易に想像できる。入院中に役所との交渉を開始したが、退院時点でも拠点は特定されず。施設入所を可能にしたのは退院強行の決断であった。発作が完全に抑制されていても、難治であったてんかんの患者さん方には、社会資源問題は解決されていないということになる。
長期戦となるてんかんとの闘いは、さまざまな問題を事前に具体的に想像し、治療過程に合わせながら優先課題を早期に特定する作業である。この症例は、この実践理念の正しさを教えてくれている。優先課題と関わっていただかなければならない、社会資源の担当者、できれば専門家と呼びたいが、とともに歩める社会としたい。加えて、その種の支援専門家には、発作が止まっていても、てんかんの患者は、いつ爆発してもおかしくない事件があるかもしれないというてんかん問題そのものを抱えてながら、生活していることを忘れないように助言していきたい。さすれば、その人がその人らしく、安定した穏やかな生活が送れるよう支援していることになる。
小島奈穂美