7月25日(木)、てんかんイーヴニングセミナーEESBベーテルてんかんケア実践講座2019‐第三期第2回講義が行われた。今回は、「知能検査新版の特徴」と題し、てんかん専門病院ベーテル、神経心理士阿部佑磨が担当した。
神経心理検査の総論は既にEESB第7回、2017年9月14日に講義されている。今回は知能検査の新版に焦点を当てている。なお、神経心理検査は知能検査の他に、発達検査、言語、記憶検査、性格検査、高次脳機能検査、作業検査などがある。
さて、知能検査の歴史は古く、知的発達の遅れを見る教育分野や、職業適性を見る産業分野、第一次世界大戦での兵士の適性を見るために開発、使用されたという歴史まである。
知能検査は現在、学習や学力の基礎や社会的に生きていく能力をみる目的とするようになり、大きく変化した。全世界で行われており、人種、民族、宗教、社会風土、教育制度などが欧米と異なる日本も例外ではなく、欧米のものが日本版として訳され、また日本風にアレンジされて、実施されている現状である。
ベーテルで、最近導入された新版の知能検査の種類は、新しい順に、④WAIS-Ⅳ:2019年5月、③田中ビネー知能検査Ⅴ:2019年5月、②WISC-Ⅳ:2016年7月、①K ABC-Ⅱが2016年5月となっている。
現在の知能検査は、CHC理論(キャッテル・ホーン・キャロル理論)に基づくものが主流となっている。キャッテル・ホーン理論は知能を①結晶性能力、②流動性能力の二つの種類の知能力に区分する。キャロル理論は、知能は幾つもの因子から構成されており、因子分析が重要と主張する。この二つの理論を合体させたものが、一般知能なるものになる。知能を構成する因子は大きく10項目仮定されているが、そこから聴覚処理と反応/判断速度の2項目を外し、③視覚処理、④長期記憶と検索、⑤読み書き、⑥数量の知識、⑦短期記憶、⑧処理速度の8項目の因子のいずれかが、各知能検査で測定可能とされている。
CHC理論から再構成されたWAIS- Ⅳや、WISC-Ⅳでは対象年齢の変更もある。検査時間も、個人差はあるが60分から90分間かかっていたものが、60分前後で終了するように短縮された。また、手の震えなどの運動的機能障害のために結果が左右されないように、問題を作り替えている。また、条件の違いで結果がどう変わるかを見るプロセス分析の本格的な導入がされている。
田中ビネーⅤ知能検査は、能力の年齢的な水準をみることができる検査で、2才から13歳11月までは従来通りに精神年齢と獲得能力をみていく検査であるが、14歳以降の場合は、知的能力の遅れや能力の下位領域を分析的に見ていくことができるようになっている。他者集団と比較しての分析ができるように新しく変更されたものになっていて、今後のデータの蓄積が待たれる。
K ABC-Ⅱでは、知的能力や認知能力に加え、基礎学力を測定することができ、学習障害など特異的発達障害の診断やアセスメント、支援に有用な情報を得ることができるように改良されている。検査時間の長さなど負担がある一方で、重要なデータを測定できる可能性を持っている検査である。
講義の中では、近年重要視されているワーキングメモリーや流動性推理といった知能の側面をどのように検査で測定しているか、知能検査がどのような雰囲気のものなのか、疑似問題や創作問題による体験を取り入れ、なかなか実感できない知能検査の雰囲気を味わい、どんな検査をしているのかという疑問に少しだけ答える時間となった。
またIQという数値が、世の中ではどのように取り扱われ、偏見や偏った見方をされてしまう可能性があるのか。また、例えばIQ69が持つ統計的意味や、標準偏差、信頼区間といった、専門的ではあるが統計学に基づいた解釈についての話があった。
講義の最後には、3つの検査結果による事例報告があり、検査結果がどのように解釈されうるか、その一例をお示しした。単なるIQ(FSIQ)という数値からだけでは読み取れない、言語や視覚などの神経心理学的な能力の乖離や、日常生活に影響があると考えられる特徴、その方が感じているかもしれない苦労や、逆に得意で優勢な能力など、一つの知能検査から見える検査結果の所見や見立ての可能性と限界について講義した。
知能検査は、賢さや学力、仕事のスキルを測定するということではなく、人間の持つ能力の一部を数値化して見ることで、その人の現実生活における様々な場面で発揮されるであろう特徴や、発揮できなくて困ったり悩んでしまう特徴を推定して捉えるものであり、その先の可能性を考える一つの情報となり得るものである。
座長のDrソガからは、てんかんや大脳領域における知能検査の解釈可能性の問題提起もあり、てんかんの診断、治療における知能検査の情報は、今後のてんかんケアにも大きく繋がっていく部分があると考えられる。
私たち医療者が、その人により適切なてんかんケアを提供していくために、多職種によるチーム医療の重要性を改めて考える機会となった。
阿部 佑磨