てんかんイーヴニングセミナーEESBベーテルてんかんケア実践講座2019‐第三期第3回講義(2019年8月8日開催)を報告する。今回のセミナー講義、「ベットサイドから見える病院の実像」は是が非でも手慣れた講師を必要としていた。医療提供者側からの医療や看護、療法の解説という一方通行ではなく、ならば患児者、家族、とある場合には外からみたら、病院はどう見えるのか、が視点であり、切り口である。具体的には、患者から医者はどう見えるか、看護婦はどう見えるか、病院という箱物は患者にとって本当に快適かなども話題となる。介護福祉士、砂金七枝が担当した。
これまでに彼女には二つの論考がある。一つは、「てんかんの天使たち~誰も知らないてんかんのはなしⅡ」で、「私だけのてんかんケア」を発表していた。また、てんかん専門病院ベーテル開設25周年記念誌では、「お見周りからのリハビリ支援」を書き残した。医者や看護師ではないという病棟スタッフの立場からも患者ケアを語ることができる。いずれの文章も、患者の目線で病院を見つめる、クールに批評できるスタッフが病院側のスタッフの中に存在することを伝えることに成功している文章である。是非ご一読いただきたいとお勧めしたい。
今回の講義では、何となくではなく、ベットサイドに腰かけた患者さんから見たら病棟のスタッフがどうみえるのか(スタッフは患者からどう見られているかに同じではない)、入院初日からの患者側の困惑を刻一刻ありのままに描写する手法で講義は進められた。
ベーテルは観察もすれば、集中精査もでき、また薬物治療の合理化作業も行い、はたまたリハビリテーションも行うことができるてんかん病棟を提供している。この種の病棟は全国に数えるほどしか存在しなかったが、いまや希少価値と呼ばれる程までに減少した。ベーテルのてんかん病棟は途轍もなく幅広い患者層を、たった一個の病棟ですべて診ようとしているので、その風景の凄まじさは想像し難いと言われている。患者家族がこれまで書き残してきた膨大な数の手記に通ずれば想像に難くないはずなのだが、実際にそうか。加えて、彼女が残した論考も余人に実情を伝えるに成功しているかは分からない。
今回の講義は、入院生活はひどく不自由で、患者さんが発表しようとしない誰にも言いにくい思いを汲み取るには、1:身体的介助を不要とする者からの視点と、2:身体介助を必要とする要介助者からの視点を、2症例自らの「つぶやき」として提示した。
身体的介助を必要としない患者1について、入院生活の不自由さは19項目が挙げられた。制限された病棟空間で、時間通りの日課が設定されている。なにしろ、自分の状態や次第に決まっていく治療内容を積極的に自ら学ばなければなない負担は不自由そのものである。身体的介助を必要とする場合2は、口で言えない分の想い全てを汲み取ることは困難で9項目の特定に限られた。ただ、ズボンをはかせるという簡単なはずの介助一つの実際場面では、スタッフがやりやすいように患者さんを合わせていた。排泄の介助に関する「つぶやき」は分かりやすく、まだ行きたくないのに時間通りに誘導され、ベッド周りの環境造りでも居心地の良い配慮とはなっていなかった。介助される側の立場に立ってみたら、まったくそうだなと介助者側が共感できるものがほとんどであった。
入院患者さんに共通するのは、てんかんであるということだけだ。年齢、身体発達、知的発達、情緒、感情、行動や精神の状態、はては性格の果てまで幅広く、個性豊かだ。家族状況、経済状態、生活習慣の違いも近頃は前景に飛び出す。まして、入院理由のてんかんの現症は更に多種多様、多彩で、誰一人同じではない。みな違う方々一人ひとりへの医療看護ケアは終わりのない、常に新たな難題となる。まして、入院を必要とすることになった場合、治療、つまり薬剤反応性は各人一筋縄ではないのだから。
一方、てんかん病棟は、一方ではてんかんの精密診断作業、次に薬物合理化吟味作業が展開し、他方ではてんかんを抱えながらも社会で生き生きと生きていくためのコツの要点、また新たな課題に直面した場合に切り抜けていくためのノウハウを学んでいく空間となっている。病棟活動の日課を受け容れて行動できるようになるよう仕組まれている。様々な想いや葛藤をくぐり抜けてこの達観に至れば、もはや大丈夫。ベッドに横になって看護師の言うとおりにしていればいいのだろうと思っていたら、何でこんなことしなくちゃいけないのと思う暇もなく、まるで患者ではないように振る舞わなければならない病棟生活の奇妙な雰囲気に圧倒される。病棟生活を通して、我が事には思えない同室者の「てんかんが抱える問題」に通じてくると、段々新たに入院してくる仲間を支え始める。講師砂金七枝は、そんなサイクルが潤滑にできあがっていく、「ベッド上の患者のカメラ・ヴィデオ目線」で、分かりやすく解説した。この動画目線を身につけることこそが、患者を誘導する病棟スタッフのお仕事となる。てんかんのためだけの、つまりどこにもない入院生活ケアの「心構え」となる。
医療看護ケアでは、どの患者さんであれ、彼・彼女たちが口にはしない、またそのものズバリの状況に通じていて、まして当然の気持ちを予め汲み取る力を備えていて、加えて、ケア感性とコミュニケーション能力を更に磨きあげていきたい。
日本のてんかん医療看護ケアの成熟度は評価しようがない。また、外来診療での不自由度は、また全く別の物である。今回のセミナーでは、入院患者さんの「つぶやき」の仕方を学んだ。ベーテルのスタッフは、患者目線のカメラヴィデオ目線で患者側からのつぶやきを更に深く知っていける。集中管理の入院病棟の価値を更に深めていけよう。
海野美千代