「思春期のてんかん、または思春期とてんかん」:その一
イーヴニングセミナーEESBベーテルてんかんケア実践講義:2019-第一期第6回講義「思春期のてんかん、または思春期とてんかん:その一」は、3月28日(木)に開催された。
思春期の概念整理が話された。一般論として思春期は19歳で終わるとされていたが、思春期は10歳から24歳まで続くというオーストラリアの研究が英医学誌に掲載されたとBBCニュースが伝えた。
てんかんと思春期についての関係について、てんかん専門病院ベーテル開設以来の15年、20年、25年の節目に集計された統計が示された。思春期となる10歳から20歳の間の発病あるいは罹病者は3割を占めることが示された。
今回の講義では加えて、本年2019年1月1日から3月16日までの退院者69名の集計が報告された。思春期に発病したのは25%で、また思春期にある患者数は36%であった。その中から思春期発病の10症例について、詳細な病状説明がなされ、また、これから必要となるてんかんケアの見通しを考える講義形式で進められた。
まず初めに、意識消失し転倒する発作に見舞われた兄弟例が紹介され、神経調節性失神を含む循環器科精査も進めながらのてんかんの確定診断作業の実際が解説された。発作の原因を明らかにして初めてケアのあり方が大きく変わることが討議された。その後の症例でもそうだが、ご家族が目撃しておらず、また幸運に大きな怪我に至っていない場合などは不安や恐怖感が薄く、助言やケアのあり方も異なる。
次に、エスカレーターの下りで失神し救急搬送を繰り返す症例が紹介された。脳波検査中に斜線フィルター刺激時に発作があり、特異な図形過敏性とされた。確実な内服に加え、用心深くサングラスなどを上手に使うことを覚えていくこととなる。第4症例目は、1歳発病で小学校高学年で減薬を開始したが、脳波上発作波が消えずフォローされてきた。大学生の間に断薬を試みることとなった。学生寮ながら個室生活となることから、無事の確認を具体的にどう確認していくかを討議した。
第5例は10歳発病の若年欠神てんかん例。ただし、側方性を伴うけいれんを示す。LTGが第一選択薬として治療開始されていたが欠神波の消失を得ていないケース。VPAを追加投与し、将来の妊娠・出産までの計画的な薬物治療計画が話された。発作による不登校などの問題も抱えており、抜かりない外来看護ケア計画を作ることとなる。
8番目は8歳発症で極めて難治に経過した17歳の青年。多剤併用に陥ったが、漸く巡り会えた適薬の併用でようやく発作が抑制された。発作抑制状態での発作波状態を確認する目的で入院。患者は心から素直で笑顔に溢れ活気に満ちていた。ようやく止めた発作であり、多剤併用状態を無理に単純化する作業を急がないこととした。
その他の症例報告は割愛するが、全症例をみなで、つまり多面的に検討するにはとても時間が足りなかった。多忙を極めるDrソガが、症例ごとに丁寧に検査を進め、確実なデータに基づいて確定診断を行い、治療手段としての薬物の試用評価を展開していく状況をあらためて学びなおす幸いな機会となった。
突然に起こる発作症状は当事者の誰でもが目の当たりにできるわけでもなく、またご本人も症状を確認できず発作自覚もないことから、理解や闘病態度に深刻さが欠けることも少なくない。的確な診断に繋がらず、また外来ケアもおざなりになる運命を背負う。まして、思春期になる、思春期に発病する場合は、他の年齢群と比べれば、精神発達、社会性育成、性の同一性問題、学業問題・学校選択、職業能力・職域選定、就職、就業継続、運転免許、妊娠、出産と数え上げれば切りがないほどの、多くの問題、解決すべき課題を抱えることになり、すべてが上手く行かないこともあろう。そこまでの長い経過をご本人、家族が理解し、見通すことは難しい。手を抜いてはならない苦労をし続ける、そして多大な時間がかかることも覚悟しなければならない。てんかん看護ケアが担うこととなる膨大な課題が見える。
海野美千代