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てんかん専門病院ベーテルは、何としてでも『てんかん』を治したいと、心から願っている方々がつくりあげる病院です。
とある日に突然起こるてんかん発作について、本人、ご家族さまの多くは四六時中振り回されることになります。入院病棟では、患者さんとご家族が一緒に取り組めるよう、ご自分のてんかんを正しく学び、ご自身がどの治療段階にあるのかを理解できるよう仕組みます。入院患児者さんは老若男女、年齢も世代も異なる方々が一緒に入院生活を送りっています。年代毎に、性別でも心理的社会的問題をたくさん抱えています。このため、医師、薬剤師、看護師を中心に、検査技師、作業療法士、神経心理士、医療事務、管理栄養士などが総掛かりで支援します。ベーテルの入院医療提供概念は多面的ティームアプローチ(MDTB)にあります。入院病棟では朝起きてから就寝まで、ベッドで寝たきりではないプログラムに沿って、活発にお過ごしいただきます。同病の患者さんの発作症状を目の当たりにすることもあるでしょう。発作症状の対応の仕方など、退院後の生活につながるような学びの場でもあります。
てんかん発作は患者さんごとに、それぞれ全く違います。お困りごとがあった時、相談ができる一番身近な存在として、担当となった私たち看護師にまずは率直にお話しください。
41床の入院病棟は老若男女を問わず、さまざまな方々で一杯です。てんかん病の似姿そのものです。てんかんをお知りになりたければ、ベーテルの入院病棟に行けば、すぐ分かります。患者さんの入院理由も、入院期間も実にさまざまです。そこでは何の検査があり、どんな治療内容になるのか、退院するときにはどうなっているのかを担当医ともども担当ナース(看護師)がご案内します。看護師が何をしようとしているのか(何をされるのか)、何をしてくれるのか(何を教えてくれるのか)、どうなるのか(どうなりたいのか)などが、専門看護ケアの中身です。
実際には具体的な検査結果次第、お薬の効能次第となりますが、そうではないのが入院看護ケアです。検査所見に沿って、これからどうしていけばよいかをご説明します。てんかんは大脳MRIでどうあろうとも、24時間脳波がどうであろうと、患児者さんのお顔にもお体にも分かりっこありません。この分からなさを私たち看護師、分けても「担当ナース・生活支援アシスタントの私」にぶつけてください。共に悩み、共に考え、共に歩みます。これが、てんかん専門看護ケアと呼ばれるものの基本です。
ベーテルはオランダのてんかんセンターIvE、メーランボスMeer en Bosch(海と森)の短期入院病棟などをモデルにしています。(IvEはオランダの医療政策の度重なる改訂により、てんかんケアの医療・福祉モデルから、日本とも似通う単純過ぎる身体疾患医療モデルに変わりつつあります)。ベーテルはたまたま日本の精神医療体系の中にあり、3月以上の入院医療提供が可能な病院です。また、たまたま、精神科作業療法を提供できる国情にあり、国立療養所体系のてんかんセンターが姿を消していく十数年前からはベーテルが牧歌的な、つまり古風なてんかんセンターの最後を飾る国内唯一の医療施設です。
ベーテルの入退院患者数は短期精査入院の増加により、入退院患者数は年間400に迫る慌ただしい活発な病院に変わりつつあります。一方で、しっかりじっくりとなるリハビリ入院などの仕上げ入院は徐々に減少しつつあります。
この入院治療の理想的な姿は、MDTB(Multidisciplinaire Team Benadering)なる多面的ティームアプローチと呼ばれる複数の各専門領域からなる担当医師の現状診断に基づいて、家庭内安寧、発達認知評価、療育教育提供、心理的精神的安定、生活支援、就労支援、職場調整を、いわゆる医師以外の各種コーメディカルco-medical professionalsが協働しながら、退院後の生活設計を具体化します。担当看護師を核として、臨床脳波検査技師、神経心理士、作業療法士、栄養士、医事担当が総掛かりで患者家族の闘病生活支援に当たります。
短くはない継続治療段階を経て、発作抑制から治癒段階に進みます。治癒段階では本当に治癒しているかを最終確認します。この間、先に述べたようにてんかん専門外来看護ケアが同じく、MDTBのフォローが継続されます。
(Drソガ)
てんかんの専門病棟が必要な理由は多種多様、多彩ですが、以下に5つに区分けします。なお、このモデルはてんかん発作だけの場合を想定したものです。
①集中精査入院(初期)
②治療入院(短期集中、中期、長期)
③リハビリ入院
④外科適応入院
⑤緊急入院
①集中精査入院(初期)
てんかんの診断と治療に欠かせない第一は、てんかん発作とてんかん症候群の精確な診断です。その方のてんかん発作がどのような症状であるかを事実として最も確かな証拠は、VTR・脳波同時記録中に発作を記録できることです。発作時脳波VTR記録によりてんかん発作の分類が確定すれば、たとえば発達障害、基礎疾患、合併症等を総合的に勘案して、患児者がどのようなてんかんのタイプ(類型からてんかん症候群名)が推断され、治療開始の必要性や適切な選択薬剤の開始となります。ここまでを初期精査段階と呼びます。通常1−2週間の入院観察が見込まれます。初期精査段階はてんかんの診断と治療で最も大事なもので、これを欠いては後々の長期治療に後を引きます。
なお、短期精査入院の中には、頭皮上脳波所見がないことを確認する治癒判定(殆どが薬物治療継続中)、減量・断薬作業の開始可否判断も含まれます。
②治療入院(短期、中期、長期)
(1)短期治療入院
発作が抑制できた場合には通常その後の闘病生活は穏やかに過ごせます。短期集中治療入院では、結果が適切な診断に基づく第一選択薬を処方します。過量でない穏やかな処方量で発作が抑制されれば的確な薬物選択であったとなります。いわゆる医者の腕ですが、適薬と評価される薬物のうちの一つであれば、七割の患者さんは発作の抑制を見ますので、腕と呼ぶほどのものではないのですが。1ヶ月周辺の入院期間が見込まれます。第一選択薬の急性の副作用がないことを確認します。
(2)中期治療入院
診断がなかなか困難な少数を除いて、最初に選んだ薬を充分量試用しても発作が抑制されない場合は、第に第二選択薬が穏やかに追加されます。なお、この段階では第一選択薬はまだ減量作業は開始されません。2ヶ月弱の入院期間が見込まれます。
(3)長期治療入院
発作を抑制できない場合は、第三選択薬が追加されることになります。なお、三種類の薬剤を充分に重ねても発作が抑制されない場合は、難治性(薬剤抵抗性)てんかんであるかもしれません。集中的な監視の下でのこの入院治療の目安は以内です。
③ハビリテーション・リハビリテーション入院
短期集中、中期、長期に関わらず、止まらない発作による事件や薬物の過量状態、心理的精神的不安、療育・学校・社会生活に支障が発生し、時には日常生活も自由ではなくなることにもなりかねません。外来診療で対応できない場合は、いわゆる検査入院以上の期間、更なる治療吟味作業のため観察・リハビリテーションの入院治療が必要となる、あるいは退院後に安全で楽しい生活を送ることができるように、具体的な支援を設計し、現実のものとします。
④外科適応入院
初診時点あるいはその後の精査結果から、てんかん発作が薬物治療では止められない場合には、てんかん外科治療の適応(外科治療ができる患者さんである可能性がある方)があり得ることをお伝えします。薬物治療のいずれの時点にあっても、外科治療適応の時点を見定めようとしています。時にはできるだけ早期に、てんかん外科医の診察を仕組み、てんかん外科のオリエンテーションを一度ならず受けられるようにします。
ベーテルのてんかん外科へのスタンスは開設時点から変わりません。特に、てんかん外科執刀医となる外科医とは入念な外科症例検討会を重ねます。外科への紹介には、元来外科適応がありそうで、かつ、①その時点までに試用できる抗てんかん薬を使い切っても発作を止めることができない、②発作時脳波が外科適応を満たす発作時脳波回数が捕捉されていて、③外科施設への転院時点までに、危険な転倒発作や発作重積を避けながら可能な限り抗てんかん薬の種類を減らすこと、などを目標にします。
なお、てんかん外科の適応に関する様々なガイドラインが提出され、特に、(i)てんかん性脳症、(ii) MRIを中心とした各種画像所見の有無など、早期の外科介入の進歩が取り沙汰されています。
⑤緊急入院
短期(初期)精査、短期(集中)・中期・長期治療入院、リハビリ入院のいずれにも関わるものに、緊急入院があります。発作再発、発作悪化、発作重延・重積、薬物の副作用・重篤化、発作による転倒性外傷などの型どおりの事件に加え、怠薬、断薬、過量服薬などが加わります。また、単身生活、低栄養、脱水、水中毒なども少なくありません。理由や原因などにより対処が異なります。また、患者さんの高齢化に伴う身体合併症では地域中核病院の救急科に受け入れをお願いすることになります。なお、この4年間でベーテルはCOVID-19感染の方々は数名、単一病棟のためお引き受けできませんでした。
日々の業務は、いわゆる勤務表に基づいて各スタッフの業務割りが決まっています。看護部門が中核となり、これに薬剤師、検査技師、栄養士、作業療法士、神経心理士、介護福祉士を含む看護アシスタントがそれぞれの役割に応じた業務分担が入り交じり、説明に困るほどの大変に複雑に錯綜した、こなさなければならない日課表となります。
業務割当や共同作業の中心にいるのがいわゆるその日の看護師リーダーです。リーダーは医師の診察業務全体を準備し、また医師からの指示を忠実にこなすのが第一の役割で、第二に当日勤務の看護師たち(いわゆる部下となります)に今日の予定を精確に申し送りし、また逐一その業務報告を受けながら次の対応を具体的に指示しなければなりません。また、一日の終わりに、リーダーは夜勤看護師への申し送りと明日の看護リーダ−の看護師への業務の申し送りを仕上げます。その黒子となる今日一日、そして明日、また来週の予定を病棟看護師長が目配り忘れず統率します。看護師はじめスタッフには急病もあれば個人的な事件も発生し、その善後策にも忙殺されます。
リーダーの部下たる看護師グループは予定された処置や検査誘導、患者さん個々の状態観察と看護問診を行う一方、病棟内で発生している看護事件を拾い集めます。これをナースステーション内から見れば外廻りと称される、病室看護を見落しなく業務を淡々とこなします。一方、各看護師・アシスタントは担当患者について個別の担当看護を忘れません。
入院予定者があれば、入院オリエンテーションからインテーク、看護評価まで、全てを看護カルテにまとめます。加えて、医師からの入院時指示の一切を引き受けなければなりません。
看護アシスタントは着替え、洗面、排泄、食事、日課参加、療法参加、余暇、安静など、看護師業務を側面から援助しながら、あらゆるお世話をさせていただきます。
予定の処置、検査、運動や訓練などが滞りなく済ませますが、看護実態は一日終えればくたくたとなるが、実情でしょう。それゆえ、彼らはいわゆる白衣の天使と呼ばれる所以です。
入院中の患児者さん方から見れば、病棟スタッフにいろいろなボロを見つけることになりましょう。たとえば、検査が予定されているがなかなか呼ばれない、話を聞くと言ってくれたが一向に来そうにもないなどです。特に救急患者の入院やどなたかの急変など、何かが決まっていたかのように発生し、お約束を守り切れないこともしばしばです。とはいえ、療法や訓練、面談など、ベーテルの入院生活は決して暇ではないように仕組まれており、患児者さん方は結構多忙です。近頃は生徒や学生さんは学校のオンライン授業など、旧来とは異なる患者さんの都合も入ります。
くどくどしたこの説明をわざわざ書き残すのは、入院患者さん方とスタッフティームの一日の慌ただしさとそうでありながらの一日が終わってしまえば整然としている日課の生中継情報が、患者―病棟看護の意思疎通のために必要と考えているからです。検査技師、栄養士、作業療法士、心理士、医事係ともども、入院観察治療という日課をこなしています。
MDTB多面的ティームアプローチの要になるのが担当看護師でありアシスタントです。MDTBは基本主治医が主導するかに見えますが、実際は担当看護師が中心となり、医師を含めて各領域の担当者の週間小括をとりまとめます。週間小括では担当検査技師の報告が重要であったり、神経心理士の週間小括が優先となったりします。担当看護師は患者さんからの視点をも代表し、MDTBが与える側からの一方性でないことを保障する立場に立つことを要請されています。担当看護師は患児者さんの直接の受け手であり、ご家族への連絡などを請け負います。医療費のことであれば担当医事科スタッフが、強いストレスを抱えれば臨床心理士に特別の時間を割くよう指示することができる立場を与えられています。
(石川真弓、Drソガ)
新しい名称となりました。以前は看護アシスタント部門と呼ばれていました。診療報酬点数制度により、以前と比べて病棟看護科のお仕事を補助する側面がせりだしていますが、ベーテルは開設以来、病棟生活支援を共に担う看護師業務とは異なる位置づけが与えられ、特に社会復帰支援が重点課題でした。入院生活支援科はベーテルのMDTBの重要な一部門として、病棟看護ケアチームの相棒となり、入院生活支援、そして介護ケア全般を担います。介護福祉士制度は病院制度では居場所がありませんが、ベーテルでは入院生活支援科は純粋の看護業務を除き、入院生活支援では社会復帰まで担う独立した部門と位置づけられています。ベーテルの入院病棟では看護師各々がそれぞれ3−5名を集中して担当ナースとなります。患者ケアに漏れがないようにするためです。担当看護師の相棒として看護アシスタントもそれぞれ独自の担当患者を受け持ちます。担当看護師と担当入院生活科員は担当患者から見た組み合わせの重複をできるだけ避けるように仕組みます。この恊働で一人も看護漏れがないように細心の注意を払います。
入院生活支援科は入院患者のてんかん発作の観察や介助を行い、発作に遭遇した場合は看護師と共に目撃した発作の記載を恊働して行い、患者さんの安全を図ります。担当看護師と共に介護担当を担います。医療や看護行為への橋渡しとなります。ベーテル開設当時は思春期の患者さんが多く、身の回りの環境を整えたりしながら患者さんとあれこれの会話を楽しめる時間がありました。ベーテル流儀のいわゆる生活療法活動が日課であったと聞きます。現在は重度の障害がある方、高齢の方、身体疾患を合併している方が多くなりました。このため、お身の回りの介護、介助の仕事に忙殺されてしまいます。ADL日常生活動作の介護に割く時間が多くなりましたが、重症の方々の刻々変わる、また数日間のてんかん発作や身体状態の小さな変化に気を配らなければなりません。
とはいえ、開設時から目指した看護介護ケアの目標、発作があっても規則正しく当たり前に生活し、何事も楽しく過ごし、粋におしゃれをし、活発にいきいきと生活できるよう一緒に考え、実際に実行していけるようお手伝いをします。
担当アシスタントが週に一度、お伺いし、目標如何を話し合います。
退院時にまとめを行います。
退院後の外来への申し送り状を差し上げます。
再来でのリハビリ管理が仕組まれる方もあります。
(砂金七枝)
患者さんがベッドから見る病院内の景色を共有できるように、同じ目線で物事を考え、サポートする事を心がけています。直接感謝の言葉を頂ける機会が多いので喜びとやりがいを感じます。