2022/4/22
MACBJ(MACB:Monthly All Members Conference BETHEL Japan)
MDTB定期症例検討会(MDTB:多面的ティームアプローチ)
第117 回:公開版2022−4
要約
症例 10代男性
診断 (脳波的視点)右前側頭・前頭葉焦点性てんかん
基礎疾患 なし
成因関連 なし
てんかん発病 9才
てんかん発作型 欠神発作様事件はある
てんかん症候群 (潜在性)小児欠神てんかん
大脳MRI所見 所見なし
発作時脳波 右側頭葉焦点性の発作時脳波原型(不顕性発作)
間欠時脳波 覚醒時、右前頭部、前側頭部に不規則な4秒持続の高振幅
徐波が見られる。(小棘波を伴うこともある)
てんかん外科適応 検討されず
入院理由 5年間の発作抑制期間を経て断薬プログラム策定
発作抑制予測 発作申告の追加はない
生活上昇期待 高校進学に向けて夢を語ることができる
症例検討理由 一卵性双生児の欠神てんかんの経過を検証する
外来看護管理 減薬作業による発作発来の有無の確認
地域支援役割 なし
身体的合併症 なし、鼓膜形成術後
てんかんケアのキーポイント
1、断薬に向けた脳波精密診断作業
2、経過ならびに現時点でのてんかんの重点優先課題の特定
3、高校受験生から高校生、その生活の様子の評価
<看護―入院>
1.今回の入院理由
発作なく5年経過し、断薬のための脳波精査診断目的での入院
2.てんかん病歴
7才時に眼が右にいき、読んだところを忘れていたという事件があった。一卵性双生児の弟が定型欠神発作例であったため、てんかんの除外診断目的で脳波検査を行った。結果、右前側頭に20秒の発作波異常所見が確認された。頻発している可能性があるため、24時間脳波VTR同時記録検査を主体とする精密検査入院となった。検査中の脳波の異常はあるが症状の合併はなかった。薬物治療の開始とならず退院となる。その後外来で半年に1度脳波検査のフォローを行っていた。
9才時に、登校中意識がなく立ちどまる。学校の授業中1時間ボーッとなる事態に気づかれ、再度脳波精密診断作業目的の入院となった。脳波で右前側頭部に長い棘徐波が出現し、その中に全般性棘徐波結合群発3−4秒が出現していた。焦点性としてカルバマゼピンCBZが選択され初期飽和を行った。脳波上の全般化規制は軽減し退院した。
ながら、退院後、前頭部の熱感や頭痛が訴えられ、授業中にも反応が悪い時があるなどがうったえられた。脳波所見も全般化傾向の改善が芳しくないとされ、CBZの減量とヴァルプロ酸VPA-Rの300㎎が導入された。外来ベースでCBZは抜去されている。発作事件の再発はなく、同じくVPAは200㎎に減量されている。更に同じく1年後、100㎎に減量されている。
3.入院看護評価
7才、9才時に入院の経験があり、今回15歳で3回目の入院となった。思春期の特徴なのだろうか、なかなか集団の中に入ろうとしない様子であった。入院生活への不安もあり食事も残す状況で、新型コロナウイルス感染症対策によるリモート面会時には、母に会いたいと泣いていた。とはいえ、入院目的は理解しており検査は拒まず、しっかりと受けることができた。
学校にはきちんと遅れず通っており、交流関係も問題はなさそうだ。慣れない生活空間に入り、馴染むまでに時間がかかる少年と思われた。病棟日課に合わせて振る舞うことはできず、声を掛けられての参席となった。デパケンRの100㎎1錠を服用している。
4.治療経過にあわせた看護計画
本来、断薬作業は減薬開始前に計画されるはずであったが、既に外来治療経過の中で、VPAが100㎎まで減薬された状況であった。減薬に伴い以異常波の出現が確認されたことから、遅ればせながら精密診断作業が計画されたケースである。入院中は発作の訴えはなく、また目撃もされなかった。検査の結果、異常波が残存していることが確認され、最終判断は高校生になってからの判断となった。
ベーテルの入院生活は、毎日活発な生活が送れるようにプログラムされているが、症例は時間に合わせて行動するのが苦手で、声をかけられてから動き出すまでも間を要した。スタッフに声を掛けられ、共に入院となった弟君に誘導され動いていた。親元を離れホームシックにもなっていた。
内服は母の指導管理の下、幼少期から習慣となっていて、飲み忘れはなく、問題はない。自宅では日付時間毎に薬袋にセットしていた。今後は断薬作業が進められていく予定であり、油断しないよう自律服薬を続けるようお話しした。
(担当看護師―安藤 美妃)
<生活介護ケア>
7泊8日の検査入院の方である。なお、今回は、同じく薬物治療中の弟と一緒の入院である。家庭、学校生活に困難は聞かれなかったし、病棟でも洗濯も自ら行うことができていた。我々に見せた顔は、恥ずかしがりやで口数少なく、自分の気持ちを言葉に出すことはない思春期の少年だった。さすが、母と離れての入院生活は不安で寂しかったようだ。食事がすすまず、母とのリモート画面越しの面会時には涙が出て会話できない場面をみせたりした。
病室では他の患者さんと積極的に交流する姿は見せず、かといって兄弟で過ごすわけでもなく、いわゆる余暇時間は常にゲームの世界にいた。病棟生活は半ば強制的な日課活動があるが、声を掛けなければ部屋から出てこない。我々の誘いには合点承知と動くことはなく、弟の誘いがあれば即応の状態となる関係性を見せた。
短い検査入院だが、最初は声がけにうつむき、目を合わせなかったり、返答が返ってこないこともあった。後半は少し慣れて、ゲームから目を離し手を止めて、スタッフと会話するようになった。
ご本人にとってのてんかんは、自ら得心できる発作症状を一度も感じたことがない。弟の欠神発症があったが故の健診で活発な脳波異常があることが知られて治療開始となっている。母の心配に納得し内服は抵抗なく習慣化していた。また、他の患者さんの発作に驚きはあったものの、検査に抵抗はなかった。
一卵性双生児という特異な状態にあるからこその彼なのかと、理解を広げることができた。
(介護福祉士-砂金 七枝)
<看護−外来>
外来経過
弟が9年前に小児欠神てんかんと診断され、治療を受けている。7才時、兄の本人もボーッとする様子が見られたため、念のためと受けた脳波検査で右前側頭に発作波を認め、入院しての脳波精査となっている。
〈病歴・外来経過〉
1度目の入院中のモニタリング脳波でも右こめかみに活発なてんかん性脳波異常が検出された。しかし、明らかな症状はなく不顕性の異常に留まり、治療開始とはならなかった。外来にて経過を追っていた。右側頭葉でもあり、SPECT検査も行なうが、有意義な所見は得られなかった。
9才時、発作症状だろうと疑ってよい発作があり、2度目の精査入院となった。カルバマゼピンCBZの200mgの治療が開始された。外来経過の中では、頭痛やおでこの熱っぽさを訴えることが増え、カロナールで対応していた経過がある。その後、明瞭な発作症状の再発なく、CBZは慎重に100㎎に減量され、全般化した欠神波の新たな出現のため、ヴァルプロ酸VPA―200㎎が追加され、また300㎎量に増量されていく。11才でCBZは中止されVPA単剤となる。本人より車酔いの訴えあるが経過観察。12才時にVPA100㎎まで減量となる。その後も発作はないものの、脳波異常が残っていることから3度目の入院の運びとなった。
〈外来看護ケア〉
服薬は小児期発病であり両親の支援により管理されている。一方で高校受験の時期を迎えており、服薬の自己管理、病気への理解については自立に向け継続した看護ケアが必要な時期となる。キーパーソンの母は心配性な一面があり、何でもしてあげるという形になっている。今後は年齢と発達に応じ、できることを増やしていく必要があり、そのためにはどうすべきかを考え、目標を掲げ外来看護ケアを展開していく必要がある。
学校生活面、学習面のフォローについては、高校の選択が差し迫っており情報を共有し必要な助言をしていく必要がある。食生活については外来通院時に、栄養指導を継続し、内科的疾患に移行しないよう栄養士と連携し自覚を持つことができるよう支援していきたい。
発作はないものの、いまなお残存発作波が認められるので、早急の断薬が躊躇われると判断された。断薬については高校1年生(16才)に開始するという方針となった。減量計画時は、脳波の変化と自覚できる症状の聞き取りを落とさず行いたい。
毎月の外来通院は、母のみということが多く、本人が来院しても待合室ではゲームをしており、名前を呼ばれてもすぐには行動できず、母の促しで立ち上がる状況である。診察においても母が主体で話をすることが多いため、今後は、本人が自ら外来主治医と会話するような外来診療場面に替えていきたい。
(外来看護師―阿部 亜里沙)
<検査>
1.画像検査
・頭部MRI検査:所見無し
・大脳SPECT検査(連携機関):意義不明だが左側頭葉後部〜頭頂用に
集積低下
・頭部ASL:4年前のASLでは明らかな右半球性低灌流所見
・頸部MRI:C6椎体後部領域に椎体血管種があり、前内椎骨静脈と交通
2.脳波検査
1)今回以前
基礎活動:9Hzのα波活動である
なお、光感受性はない
右前頭部(F8)に4Hz の棘徐波が持続し、また途中
右前頭極Fp2に短い持続の高振幅徐波連を伴う。頭部が
かすかに動いているようだ。
2)7年後の今回の入院脳波所見
しっかりとした覚醒時には所見はなく、傾眠前に両側前頭部、側頭部に、
単発の、あるいは2秒ほどの不規則な4秒持続の高振幅徐波が散発する。
小棘波を伴うものはファントム波に似るものがある。
3.神経生理検査
・VEP:N75、P100、N145の潜時が延長し異型のまま
・MLR:左右差なし
・SEP(上肢正中神経):bigではなく、特記なし
4.その他
心電図・24時間心電図:特記所見なし
24時間血圧:特記所見なし
5.血液・生化学
生化学:UA 7.4mg/dl とやや高値
血算 :問題なし
尿 :問題なし
6.腹部超音波:特記所見なし
(検査科―小林 宏之)
<薬剤>
7才時、弟におくれること2年でベーテルを初診した。外来脳波で発作波異常が指摘され、1回目の脳波精密診断作業目的の入院している。その後、9才で、あらためて発作症状の目撃があり、再度の精密診断作業と治療薬の初期飽和目的で2回目の入院となった。
診断により、カルバマゼピンCBZ100㎎で治療が開始され、200㎎に増量されて退院となった。翌月の外来受診時のCBZ(200㎎)の血中濃度は7.8であった。その後の外来通院で、授業中の反応の鈍さや頭痛の症状が報告された。また脳波所見が全般化傾向を示してきたことから、ヴァルプロ酸VPAが導入された。なお、同時にCBZ200㎎から100㎎へ減量となる。
CBZの減量作業中に発作波出現が増加したため、一時200㎎に戻された。とはいえ、脳波検査所見は改善を見ず、CBZは再度100㎎に減量された。
11才時点で導入されたVPAは300㎎(1-2)へ増量され、またCBZは抜去された。なお、薬物血中濃度は、VPA(300㎎)内服で血中濃度26.01、CBZ(100㎎)で血中濃度4.10であった。
脳波の状態は徐々に改善が見られ、VPAの減薬作業に着手となる。200㎎へ減量(VPAの血中濃度24.36)。半年後、VPAを100㎎へ減量となった。しかし、その後の定期検査で、発作波が残存し続けたため、今回3回目の脳波診断作業の入院となる。入院中に確認されたVPAの薬物血中濃度は、15.53から6.53に半減していた。脳波異常はわずか残っており、断薬時期は高校生になってからとなった。
<略語> CBZ(カルバマゼピン) VPA(バルプロ酸ナトリウム)
薬物血中濃度の単位:㎍/㎖
(薬局長―武者 利樹)
<主治医コメント>
小児欠神てんかんと診断した一卵性双生児の弟の兄なので、元来は一卵性双生児における小児欠神てんかんの特徴から述べるのが王道の方だ。弟に遅れて2年、読んでいたところを忘れていることに気づかれた。遅ればせながらと言えようが、頭部MRI所見の除外に加えて脳波検査を行ったところ、右前頭極と前側頭部に4Hzの棘徐波結合の群発を認めた。私どもが好んで使う発作時脳波原型のパターンである。波形は3Hzではないが、全般化像は僅かの右前側頭部が先行するものもあるが、一般に突発発作波は出現初期に短い持続だがよく全般性だ。全般像は2ー3秒のみ続き、その後は右前側頭部にのみ棘徐波結合が長く続く。中途右前頭部に同期する短い群発を散発させることがあるが、前頭部の発作波は独立しては出現しない。脳波所見の最も顕かな象徴は、F8右前側頭部の完全に独立した焦点性活動で、長ければ24秒も持続したものもあれば、全般棘徐波結合発作波に先行すること3−4秒は当たり前で、全般性棘徐波結合が消えた後も述べたように持続する。
発作事件は稀に気づかれはしたが不顕性のままに経過した。たまたま、目が右によることがあるという主観発作と、立ち止まってしまって一人取り残されたという顕性事件があったから、てんかんである。
本例の脳波所見は焦点性活動がメインで全般化は二次的だ。棘徐波活動が右に優勢などの脳波的特徴は欠神も珍しくなく、加えて起始も消失も同様に左右非対称性どころか局所性に始まり、局所性に終わっていくように見える症例もいる。
発作時脳波パターンは幾つも記録されたが、残念ながら訴えられた発作事件の特定には繋がらなかった。本例の医学的管理は終了しようとしている。いま改めて、臨床脳波学的観点を整理すれば、消失、つまり良くなった右前側頭部・前頭極に著名な焦点性活動が何者であったかが鍵だ。年齢依存性であったこと、焦点性活動がいわゆる二次性に全般化していく一般的な発作時脳波パターンを示さなかったことの二点が重要だ。それは、また弟が一過性に見せたローランド鋭波活動に酷似しており、てんかん性脳波の消長という不思議にも繋がる。
本例の説明には一卵性双生児という生物学的観点と合併する小児欠神てんかんなるてんかん医学的観点の両者を繋ぐ理論を必要とする。
(Drソガ)
<神経心理>
本症例は双子の兄で、弟より後にベーテルを受診し、初診時から定期的に発達の経過を確認してきた経過があった。今回の入院時の神経心理検査結果では、知的能力や認知発達は安定しているが、ワーキングメモリーと呼ばれる一時的記憶や注意集中の項目がやや不安定な結果であった。
しかし、明らかな能力的な低位とは言えず、状況や環境の影響も十分に考えられる。思春期に突入して、やる気や場面への適応、コミュニケーションなど、不安定に見える時期であることも影響しているかもしれない。
7歳時、9歳時にも知能や発達の検査を実施しており、平均ラインを崩れることなく経過していることが確認されてきた。一方で、恥じらいや消極さなど、先にも触れた年齢的な影響や変化も感じられる部分もある。入院中にはゲームに没頭する様子が多く見られ、性格や気質の傾向からもどちらかというと内向的、内閉的な心理的側面の可能性が示されている。検査等への切り替えは十分にでき、一対一のコミュニケ―ションも、積極的ではないが自然な範囲ではあるため、自分の世界に浸ってしまうようなゲーム等の偏った環境が続いてしまうと、本人の性格も重なって、より何かに没入してしまう可能性は否定はできない。
発作は消失していて発達的にも安定した推移を示しているため、今後本人を取り巻く環境がどのようなものになっていくかが重要な要素となるだろう。思春期という本人も周囲の家族、第三者も関わりが難しくなってくるこの段階において、自主性や意思を大切にしながらも、時には介入や適切な方向へ導く選択肢を与えるような周囲の関わりの必要性を感じたケースであった。
(神経心理-阿部佑磨)
<作業療法・生活>
慣れない入院病棟の生活を始めるにあたり、病棟日課や集団的作業活動があることは、とても意味のあることです。活動や作業を介して、入院病棟というものを知ること、他の患者さんたちと交わること、何より未成年の彼にとっては、年代の違う大人たちがいるなかで、一緒に活動することなど、入院だからこそ体験できる貴重なものです。
一見弟をリードしているようにも見えますが、作業や活動は奥手でした。弟の影に隠れて、なかなか人中に入ろうとしません。自室にこもり、ゲームへ逃避する傾向がありました。弟をワンクッション、窓口にして、のそりと応対する傾向がありました。
また、アンケートを書いた際には、過去に戻りたい(小学生頃へ)というのが印象的でした。中三の今、思うようにいかないことが多く、苦しいようです。いまの自分をそのままは肯定できないでいます。短期の入院での作業療法の提供では、楽しめたり褒められたりするまでに至らず、歯がゆい想いです。
(作業療法士―有賀 穣)
<栄養>
症例は、14歳の中学生の男児である。バレーボール部に入っている。
今回3度目の入院であるが、親が付き添わない入院は初めてのため、戸惑っていました。親元を離れた寂しさから食事も摂れなくなってしまったのです。母の情報ではそこまで偏食ではないとのことであったが、今回の入院では全体の半分から2/3量程度食べて、すぐに部屋にこもるといった生活をしていました。食事をきちんと摂れないと薬の血中濃度が上昇することも懸念されるため、ある程度嗜好に寄り添い要望に沿って提供は行いましたが、短期入院では効果の判定に至りません。
肥満、体重増加そして高尿酸血症が認められました。小学生の頃は平均よりも体重増加のスピードが速かったように見えるが、中学生になり部活で活発に動くようになってから体重の増加スピードは減少した。しかし、コロナ渦のため学校での部活動が思うようにできないこともあり、運動量が低下し、最近は体重増加が進んでいます。普段から体重を測る習慣がなかったことも原因です。
栄養計画としては受験勉強やゲーム三昧なので、運動量低下による影響を受けやすく、今後も体重の増加が続くと思われます。肥満に付随した高尿酸血症は外来での栄養指導を必要とします。成長期の栄養指導はなかなか難しいが、身長の伸びを待たずに体重コントロールを図ることとしました。肥満自体も問題だが、急激な体重増加は薬の血中濃度の管理が影響を与えるため、改めて母に説明し定期的に体重を測定することを習慣とするよう伝えた。
(管理栄養士―勝山 祥子)
<医事>
てんかんをかかえる一卵性双生児であり、現在14才。こども医療費助成制度を受給している。子供の体調、様子を常に気遣う保護者にとって、医療費の助成は経済的な負担の軽減にくわえて精神的な支えになっている。
乳幼児医療費助成制度は1960年~1970年代に「乳幼児死亡率の減少」を主たる目的としてはじまり、1990年半ばには、全都道府県に導入された。現在、子どもの健康保持、子育て世帯の経済的負担の軽減、少子化対策などのため都道府県が定める基準に従って、各市町村が独自に制度を実施している。一方、子ども医療費助成制度にも否定的な意見もある。1、市町村の助成事業予算増大による財政圧迫、2、患者負担に関する市町村間格差などがあげられる。子ども医療費助成制度は市町村が、県の制度に上乗せし独自の医療助成を行っており、市町村によって受けられる医療助成の内容が異なってくる。助成内容の違いは、①対象年齢、②所得制限の有無、③一部自己負担の有無、④通院・入院での区別などが挙げられる。住む地域によって受けられる医療助成に違いが生じることから、不公平との意見もあるようだ。しかしながら、子ども医療費助成制度は、対象年齢の引き上げなど、全国的に充実傾向が見られる。
子ども医療費助成制度は、市町村が限られた財源を有効に活用し、設けている制度であり、てんかんをかかえる子どもたちが社会で幸せに生活出来るよう、微力ながらお手伝いをさせて頂く事を願う者にとっても心強いものとなっている。
(医事科―佐伯さとみ)
<座長総括>
今回は、入院主治医からの難しいコメントがあるが、基本一卵性双生児のご兄弟であり、基本3Hzの全般性棘徐波結合の定型欠神例と考えてよいとのことであった。少々の紆余曲折はあるが、欠神発作は完全に抑制されているが、残存する発作波以上のため、型どおりの断薬時期に当たるため、その時期を見計らうため、兄弟で一緒に入院することとなった。不安解消目的でスタッフの配慮があったのか、同室でベットも隣同士の生活となった。母と離れての入院生活に涙していた彼にとっては、側に弟がいるだけで安心材料となっていたと思われる。
彼は、弟のてんかん発病依頼、学校でも家庭でも見守りを任されていた。その後、思いもよらぬ自らのてんかん発病があり、弟の入院の際はいつもお留守番であったのに自分も入院となり動揺していたと母が話していた。彼は、弟の入院時は母と離れ寂しい経験をしていたのだろう。また、母が仕事で忙しいため、弟のお世話や見守りで、常に不安感を感じていたのではないかと推測する。
弟は、兄は能力があるのに、進学も皆が行く高校に決めているとボヤいていた。
何かしら普通に生活することにも不安感や自信のなさがあるように思われた。弟との会話中も自分の話題になっているのに、相槌を打つでもなく、反論するでもなく目も合わせずに事態を静観していた。
ほかの患者さんと、おおらかに笑顔で会話している風景も見かけなかった。誰とでも気さくに会話を楽しむのは苦手の様子であった。少しく長めの入院であれば、病気以外の部分で彼が生き生きできていない理由を探れたが、今回の短期検査入院ではこれが限界であった。今後、外来で聞き取りを行う際は、1対1でじっくりと話し込んでみたいものだ。
何れにしろ、彼には発作というものが(仮想上では)起きておらず、更に断薬作業が進み、てんかんとお別れする日が訪れることになる。そんな子どものてんかんケアはどうあるべきか、彼の人生設計にどう関与すべきか、てんかん看護ケアのあり方を考える場合、特定事例となる。
<ケア・イニシアチブとその具体>
てんかんという病気と付き合いながら、おとなしい兄と多動な弟と、全くタイプの違う兄弟を育てることは、親御さんにとってもご苦労が多かったように思われる。母は、その苦労を2016年11月5日開催の主題てんかんのための夕べの集い、第Ⅰ部の仙台てんかん医学市民講座において発表しています。
家庭の中で誰かしらが病気であれば、致し方なくその方を中心とした生活スタイルが形成されていきます。頼りになる兄であれば当然、親御さんからも頼りにされ見守り役となりましょう。まして一卵性であり、立場は同じなのに親御さん側に立っているため、甘えたり我がままを言ってみたりして、親を困らせることができなくなってしまう現象が発生する、などの特殊な状態を仮想できます。
知らず知らず我慢してきたことで、心を開放する術を習得できなかったかもしれません。家族からも弟からも離れた場所で思い切り自分らしく過ごす時間が、本来の彼を引き出すチャンスになるかもしれません。この手の世界や研究は少なくないと聞きますので、私たちも見聞を深める必要があります。一人だけの彼を見てみたい。ウーン。
親御さんの立場にすれば、いつの時も兄弟一緒の行動で関りを続けてきているかもしれない。そんななか、母と兄だけ、弟と母だけの、一体一の親子の関係って、どんな世界なのか、教えて頂かないと。
無事高校生となれば、兄と弟の進学先の高校が異なるかもしれない。二人が全く異なる選択をしている事態の時、断薬作業は終了し、私たちはもはや蚊帳の外であろう。そうであれ、十年も共にてんかんと闘った畏友同士であれば、この入院は貴重な一場面となる。
<座長 海野美千代>