EILAT Education 2019
VIIIth Pharmacological Treatment of Epilepsy
Jerusalem,Israel, September 8-13
2019年9月9日から9月13日の間、EILAT抗てんかん薬新薬開発カンファレンスを主宰してきたBialer M教授らがILAE—CEA国際てんかん学会ヨーロッパ会議と共同開催する「EILATてんかんの薬物治療教育コース」に参加してきました。今回が第8回とのことです。参加対象はてんかんの薬物治療に携わる人で,45歳以下であれば誰でも参加できます。20名を超える講師陣と100人弱の受講生数となりました。医師が8割、薬学関係が2割と思われました。なお、会場はイスラエルの古都エルサレムの旧市街にありました。
コース自体はヨーロッパ主体ながら、講師陣は米国含めて華々しいメンバーでした。参加者はイタリア,ノルウェー,イスラエルといった国の出身が多かったが、南アメリカからも数名いました。アジアからは、私一人、でした。コースは下記のように、七つのセッションから構成されていました。コースは1週間にわたり朝から夕暮れまでの缶詰講義の型式です。講義は200名ほど入る小さめのホールで行われました。一コマ30—45分ほどの講義が一日数コマ以上繰り返されます。必ずディスカッションが15分ほど用意されていました。合間を縫って、コーヒーブレイクや軽食が入ります。
また、毎日、1時間ほどのポスターセッションのプログラムが1−2回準備されていました。受講生はそれぞれポスタープレゼンテーションを行います。プレゼンテーションの度に活発な討議が繰り広げられました。また、薬物動態の理解のための症例検討やジャーナルクラブなどのグループ討論セッションまで用意されていました。講師への質問、回答、逆質問など、すべて新鮮で非常に有意義な機会となりました。討議もさることながら、近間の受講生同士と交わすことができたディスカッションはまたとない貴重な会話となりました。
てんかんの薬物治療の教育研修コースのプログラムは、てんかん学の基礎的なレクチャー、薬理学の基礎講義、本格的に抗てんかん薬に的を絞った薬物動態/力学の講義と続きます。基礎理論のレクチャーの最後に、とはいえ、理論は個人毎に条件が変わり,オーダーメイドの医療を提供する必要があることが強調されたことが印象的でした。極端な例ながら、赤ちゃんと成人では選ぶ薬も、投薬量も、またその体内代謝も変わってくるというだけの話なのですが。また、抗てんかん薬の作用機序は、一つの薬剤で複数経路を持つことも多く、また、さらには薬物間の相互作用には計り知れないものがあり、古い薬と呼ばれるものですら、その組み合わせによっては、より効果的に使うにはどうしたらよいか迷うことすら珍しくないことが強調されているのが印象に残りました。抗てんかん薬と薬物治療の各論では、けいれん重積の治療のあり方、小児てんかんに対する薬物治療の特殊性、発展途上国におけるてんかん治療の現状と課題、妊婦・授乳婦におけるてんかん治療での特別の配慮,高齢発症てんかんに対する治療などが続きました。また、レクチャーの中には、機会があれば是非お話ししたい、具体的なシチュエーションにおける治療のあれこれがありました。加えて、新規抗てんかん薬新薬開発の基礎・現状についての講義がありました。
まとめますと、新しい作用機序を有する薬剤への期待がある一方で,多種多様なてんかん発作型やてんかん症候群、てんかん原性(てんかんの成因)に応じた適切な薬物治療がますます求められている中で、その人それぞれにおける薬物動態の相違から生まれる治療齟齬、また治療効果判定のエビデンスを集積していく現場の難しさをそのまま感じることができました。
講義はもちろん非常に有意義でありました。一方、世界中から集まったepieptologist(てんかん屋)たちに会えたこと、てんかんの薬物治療の課題を議論できたこと、この地球上で住むところが違っても同じこの時にてんかんと闘っていること、お互いにてんかんの診断と治療に立ち向かっていく姿勢を共有できたこと、これらのことが、教育研修
コース参加で得られた宝物に思います。てんかんの脳波学など、ILAEは薬物治療とはまた別の教育研修の機会を与えていると聞きますので、今後もこの種の事業や活動が若手のために継続されるよう、心から願います。この種の機会は交流を通しての新しい文化にもなりそうな気配を感じますので、日本やアジアにも機会があればと期待します。
オープニングセッション:挨拶,てんかんの基礎
セッション1:抗てんかん薬の薬理
セッション2:薬物動態学・薬力学と薬物血中濃度モニタリング【TDM】
セッション3:薬物相互作用
セッション4:抗てんかん薬をより効果的に,より安全に使うために1
セッション5:抗てんかん薬をより効果的に,より安全に使うために2
セッション6:薬剤マネージメントの洗練1
セッション7:薬剤マネージメントの洗練2 (了)
(総合南東北病院神経内科 曽我天馬)