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MACB

・MDTB定期症例検討会第105回−MAR 2021開催

2021/03/26

 

MACBJ :公開版2021−03

MDTB定期症例検討会第105回−MAR 2021

 

(MACB:Monthly  All Members Conference BETHEL Japan)

(MDTB:Multidisciplinary Team Approach 多面的ティームアプローチ)

 

症例:20代、特発性全般てんかん

 

<看護>

はじめに:症例は、ミオクロニーから始まり単発の全身けいれんの後、意識は回復しつつも言葉が出ない状態が長い続く発作症状で発症したとのこと。初診時の自覚症状はぼんやりしていたかな、何となくクラッとするような感じがするようなものがあるという。転居に伴い、仙台駅前ベーテルを初診された。

発作病歴と治療経過:2011年に全身けいれん発作が初発し、救急搬送されているが経過観察となる。2012年に再発した時は、前頭葉優位に全般徐波があり特発性全般てんかんと診断を受け、ヴァルプロ酸VPA内服治療が開始された。600mgまで増量後、全身けいれん発作は消失した。2014年によくなったとされ断薬となる。2015年に再び全身けいれん発作が再発したので、再びVPAを500mgの処方が再開された。全身けいれん発作には至らなくなったが、ぼんやり発作が週に1回程はあり、検査入院となった。1週間の入院中に発作は他覚的には目撃されなかった。とはいえ、終日VTR・脳波同時記録モニタリング検査では、覚醒時に欠神波が出現していた。長いものでは12秒から13秒間持続する。妊娠に備え、ヴァルプロ酸VPAに加えてラミクタールLTGを重ね、LTG効果が認められれば置き換えていく薬物治療方針となった。退院時に25mg隔日投与で開始。2ヶ月後から増量してLTGの効果をみていくことになった。

看護診断とケア:ご本人にとって、これが発作なのだと自覚することが難しい欠神発作であった。全身けいれん発作は止まっており、欠神発作と全身けいれん発作の相互関係を理解することは容易くない。お薬を飲み忘れることにもなる。外来看護場面では、第一は目撃された、そして自覚できた欠神発作を発作表に忘れずに記入していくこと。第二は定刻になったれば何よりも優先して服薬するという習慣を身につけてもらうこととした。規則的な生活を送ることができているか、また送れるよう助言できるよう、声をかけていくことになる。

(安藤美妃)

 

 

<検査>

覚醒時脳波と睡眠時脳波は、共に右または左の前頭部または前側頭部優勢にに全般性棘徐波複合とその群発が確認される。覚醒時のものは多くが群発持続が長く、睡眠時のものは持続が短く、長くても3秒持続に留まり、基本的に単発あるいは2連発である。

発作時脳波とみなされたものは、起始が不規則な、持続が長くなれば規則的なおよそ3Hzの全般性の棘徐波結合群発となる。持続秒数は最大12秒であった。本人には自覚はなく、脳波検査中の何時何分とは指定できないまま、「時々ボーっとすることがあったかも」という供述に留まった。   (富澤伸太郎)

 

<薬剤>

2011年12月初発で石巻赤十字へ運ばれる。2012年1月にヴァルプロ酸VPAが開始になった。なお、維持量は不明である。2014年には改善したとして比較的に早く断薬となっている。2015年6月に再発したが、この際はVPAではなくレヴェティラセタムLEVが選択された。強い眠気があったために、再度VPA400mgが開始された。なお、お薬手帳では2020年9月に600mgに増量になっているが、従来通りの500mgのまま服用なさっていた。2021年3月にベーテルに検査入院。服薬は飲み忘れがあったが、家族がいる場合にはチェックしてもらえた。10秒以上の欠神波が残存しているとのことで、VPAに加えてラモトリギンLTGの導入開始となり、退院時からLTG25㎎1錠を奇数日に2ヶ月間服用開始となった。             (武者利樹)

 

<主治医コメント>

この症例は、先ず思春期に発病した全般てんかんというくくりの中にいる。欠神発作には気づかれておらず、初発時に限りミオクロニー発作から全身けいれんとなったので、いわゆる若年ミオクロニーてんかんJMEと診断されることになったのだろう。私どもが得た結果はヴァルプロ酸VPAを服用している条件下での欠神発作波であり、若年欠神てんかんJAEだろうとなる。未治療下ではミオクロニー欠神と呼ばれる状態もあったのかもしれない。また、VPA服用により、JMEではありがちな睡眠時には明瞭となる多棘徐波結合の出現がよく抑制されていた可能性すらあり得る。この種の二次的な議論を除けば、不顕性の欠神という観点から、全身けいれんと欠神を併せ持つ若年欠神てんかんJAEとするのがよい。

薬物治療はいずれであれ、まだ妊娠問題を殊更に強調しなければならないわけではない少女期の発病であり、第一選択はVPA投与でよい。このVPAが不顕性の欠神発作までをも抑制できなかった症例となる。基本3Hz棘徐波結合群発の欠神なので、のちのち妊娠可能性が高まる年齢になることを見越して、LTG追加がよい。LTGに充分効果あれば、VPAを漸減できるであろう。レヴェティラセタムLEVも選択されたが、JAEの欠神発作に効果があるという臨床経験を私どもは未だ持たない。  (曾我孝志)

 

<神経心理>

この症例は、短期の検査入院の一般的な検査を実施し、知的能力や記憶力は年齢相応のバランスの取れた水準であった。検査結果から大きな特徴は見られないものの、検査外での本人との話や、入院生活の様子から、表面的なコミュニケーションや社会性は十分備わっているが、環境や状況に慣れることの苦手さ、エネルギーを消耗して気持ちが沈んでしまい、自分の本心や内面を上手く外に出すことができずストレスを溜めやすい傾向が感じられた。なお、スクリーニング目的での性格検査でも同様の結果が出た。

年齢的にも、てんかん発作の性質からも、病識がまだまだ形成されておらず、目先の情報や体調変化、心理的ストレスなどに左右されやすいため、今後の経過がどうなっていくのか心配なケースではある。ために、退院時にはしっかりと保たれた認知機能があることを説明し、てんかん発作をいかに抑制して明るい社会生活を送っていくことができるかが大切であること、ストレス処理も社会生活も病識形成も、自分自身を理解していくことが出発点になることを伝えた。検査結果の説明だけでなく、その人の人生や価値観を含めたトータル的な視点で関わり、理解していかなければいけないことを改めて感じさせられた症例であった。                        (阿部佑磨)

 

<作業療法・生活>

極めて限られた短期入院期間中に、どれだけ「てんかんOT」を体得できるか、また、患者メリットがどれくらいあるのか、という原点に立ち返る症例になった。本人のためには、せめて2週間以上の体験ができると、OTとしても評価しやすく、またアプローチのやりがいも「意味」も濃くなる。短期の入院は、集団との「馴染み」ができるかできないかで終わってしまう、なかば体験トライアルの域となる。

今回の入院時期では、たまたま同年代の患者が多く、少し長く入院している彼らとの交流を通して、入院経験のさまざまを提供できたほうである。今回の入院体験を通して、孤立せず生活していく、仕事と闘病の兼ね合いを上手にとることにつながると期待する。短期入院OTとしての意味合いは充分となる。

( 有賀 穰)

 

<栄養>

社会人として働いているが、朝食を食べず、食事は一日2食であったり、食事の内容も偏っており不規則な生活となっていた。便秘傾向で、入院中はおなかが苦しいと横になっている姿が目立った。栄養状態は特別な問題点はないが、慣れない病院の食事に少々不満の声も聴かれていたようすあり。給食栄養のガイダンス説明が十分伝わらなかったようなので、食生活などの改善についてはご家族も対象に伝達することとした。外来受診時の際には、職場や社会的状況の変化を把握しながら、生活が乱れないようにサポートしていきたい。

(勝山祥子)

 

<医事>

この患者さんは、他院で治療を受けながらも、クリニック受診後に自立支援医療費助成制度が案内され手続きを開始した方です。親元を離れ独立したことがきっかけになったようです。これからも親御さんの支援を受けながらの闘病生活が続きますので、抱えるてんかん問題を把握しながら、医事科として必要なサポートを継続していきたいと思います。          (横山あみ)

 

<座長総括>

ぼんやりしていることがあると気づかれながらも、ベーテル初診まで2年の歳月を要している。欠神発作などは早期発見が困難な場合があり、できるだけ早期に集中的な検査を行い、適切な治療内容にできるだけ早く到達する必要がある。今後は、5年節目で完治を目標に治療が展開されていくことになる。改めての服薬管理、生活管理についての問題点を明確にし、てんかん看護ケアを展開していくこととなる。

精密検査主体の短期入院であったことから、課題は外来看護ケアに託されることとなる。次回精査入院時の看護要点も示された。     (海野美千代)

 

 

 

症例2:20代:焦点性てんかん(光感受性、後頭葉起始性・二次性全般化)

 

<看護>

症例報告:てんかんの薬物治療を行う上で脳波証拠は欠かせない。今回の第2例は10歳の少女であった。幼稚園時代から欠神発作が疑われる症状に気づかれ、9歳時に当院初診を初診し、検査入院を経て薬物治療が開始された。件の欠神を疑われる症状の脳波証拠は得られていなかったが、光・色・図形刺激に反応する、①不規則な全般性棘徐波結合の出現と、②後頭葉焦点異常の出現の二重の所見を呈した。第一選択薬としてヴァルプロ酸VPAが選択となり、外来の定期検査フォローは光刺激の検査を中心に行うこととしてきた。発作事件はなく、また脳波も改善していることが確認されてきた。

女性なので、VPA処方の減薬が課題として検討されてきた。5年節目を迎えたので、確認の集中脳波検査モニタリングが計画された。残念ながら、光刺激中に1分ほどの発作時脳波パターンが確認された。右後頭葉焦点性であった。将来を見据え、ラモトリギンLTG導入開始の準備を行い、外来へ移行した。

病歴総括:Drソガが強調するように、てんかんは病歴の病気である。私どもがこの少女とつきあわさせて頂いた5年間以上の病歴を振り返ると、幼少期より対人関係や療育・教育にお母さまが悩まれてきた経過がある。年齢相応のコミュニケーションがとれながらも、どこか自信のなさや距離感や言葉遣いに幼さや不器用さが見られていた。学校では学習習熟にも苦手が多く、率直に言えば今後の受験や就職などの際に上手に適応できないことが危ぶまれる。コロナ禍も重なり外界との関わりが希薄になるので、負の影響となる。生活歴の確認、臨床心理経過、脳波改善などを参考にしながら、本人とはもちろん、ご家族とも心配を共有できる外来看護としたい。          (石川真弓)

 

<検査>

ルーティン脳波検査、また複数回の終日脳波・VTR検査では特記所見はなく発作波の出現も確認されていない。ところが、光・色・図形フィルター刺激検査では、斜線フィルターまたは水玉フィルター刺激時に、光調和反応以上の誘発反応が出現し、左または右の後側頭部、後頭部から全般化していく不規則なsp-w-cが12秒間出現した。発作時脳波パターンとなる。

本人は少々の異変を感じているが応答はできる。脳波反応が強くなると不安・恐怖を伴う。右偏視を伴った。水色そして斜線の形に反応するてんかんであることが知られた。2つの中でも水玉の形に強く反応する傾向が見られた。幾つかのサングラスの効果を試すことまでできればと思う。

(富澤伸太郎)

 

<薬剤>

当院初診後の2017年2月、未治療で精密検査入院し光過敏の特殊なタイプであるということで、退院時にデパケンR100mg1錠導入となった。以後200mgに増量となるが、朝に飲み忘れることが多く、2019年4月以降は、夜のみ200mg1錠内服となっていた。2019年8月に薬物の効果判定のため、二度目の入院となる。デパケンの量がわずかなのに脳波は著明に改善しているとのことで、処方変更なく、退院となった。

5年間発作症状確認なしの期間を経て、2021年3月減薬作業方針確認のため、三度目の入院となる。時々薬を飲み忘れることがあったようす。検査の結果、光刺激で脳波検査の途中から意識を失った。これは、思春期までに治ってくれるようなものではないとのことで、デパケンR400mg増量した。なお、デパケンRの増量に反応しない場合を想定し、さらにラミクタール25mg1錠隔日で導入することとして退院となった。 (武者利樹)

 

 

 

<主治医コメント>

6歳から欠神発作様状態に気づかれている。小学2年生時に担任の先生も目撃し、小3で2時間に一回の高頻度でボンヤリ発作が出現した。当時の入院検査では発作間欠時にはてんかん発作波は一切確認されなかったが、光・色・図形刺激検査、特に水玉刺激で不規則な全般性の発作波と右後頭葉に長い小棘徐波結合群発を見て、光感受性のてんかんとした。ヴァルプロ酸VPAによく反応し2年半後の再検では光突発反応は認められなくなっていた。今回の入院では斜線刺激に反応し、水玉反応で発作となった。一方、光刺激中にはかなり不規則な全般性の棘徐波結合も誘発されたので、こちらも初診時の欠神様ぼんやりを説明するのかもしれない。いずれ、光感受性が本態のてんかんとできる。光感受性は病勢があり、短期間の間に消退する期待を抱かないこととした。光刺激検査のみが頼れる状態にあり、従来通り外来脳波も光・色・図形刺激検査でフォローすることになる。

VPAの増量も一手だが、女性でもあり、右後頭葉の焦点活動性があるので、将来的にはラモトリギンLTGが次の一手になると考える。   (曾我孝志)

 

 

 

<神経心理>

この症例は、前回入院時の検査から、外来でも検査や相談を必要としたかたである。知的能力の水準は概ね平均的で、過去の検査結果から大きな変化なく推移している。一年前の結果では視覚処理の低下が見られたが、今回は大きなバラつきはなくなり、認知機能のバランスが取れてきている。言語学習能力の検査では、理解や思考はスムーズだが表出の低位が見られ、前回までと同様の傾向が続き、想いや思考を外に表現していくことの苦手さが残っている。性格、気質の検査では、若干のヒステリー傾向と共に、強い自己否定感や自尊心の低さが見られ、知的能力と学力の間に乖離はないものの、勉学への劣等感が高まっている。一方で、慣れ親しむと対人関係の距離感が近くなりすぎる様子があり、心理的な不安定さや安心感、信頼感の低下が考えられる。

母親との話では、てんかんと闘う我が子への深い愛情を持ちながらも、思春期に突入し変化していく姿に、戸惑いや不安も抱えているようであったが、幸いなことに、本人の発達、変化に対応して自分も関わりを変えていこうとする前向きな気持ちも持ち合わせていて、親になっても成長変化していくという理想的な発達像と言える。

自信のなさや精神的な不安定があるとしても、親や家族、家庭がいつでも温かく安心できる場所、存在であることが、子供の成長にとっては何よりも大切であることを伝えた。                    (阿部佑磨)

 

 

<作業療法・生活>

一週間の短期、モニタリング入院中、OTへの参加は5回でした。活動中は、他者の様子を気にかけ、援助が必要な方にはすぐに手を差し伸べることができていました。相手を思いやる、周りの様子をよく見て行動する、といったところは彼女の長所として挙げられます。3回目の入院であり情報もあり学生であったので、OT活動以外の時間で、学習プログラムを組むべきでした。

短期入院の方のOT評価は難しいのですが、複数回の入院の場合は一つ二つの独自OTを提供できるように考えてみます。        (菅本沙希)

 

 

<医事>

更なる子育て支援の充実を図るため、入院・通院にかかる医療費の一部負担を助成する制度「子ども医療費助成事業」という制度がある。対象年齢が18才までの入院及び通院に係る医療費(保険適用分)が助成されるというものである。

この方の場合、子ども医療受給者証を受給されており、今回の入院は医療費の軽減が少ないが、18才以降の補助制度として自立支援医療制度や限度額認定証があり、こども医療費制度が終了する前にスムーズに申請が進められるよう案内していきたい。                     (横山あみ)

 

 

<栄養>

もともと貧血が指摘されている。本人の顔色が悪くみえることは周りが心配するほどである。現在鉄剤は内服していない。半年程前のHbは10.7g/dlと低値であったが、現在は12.4g/dlまで回復している。入院中はコンスタントに鉄の摂取が必要と考え、鉄の付加を実施。退院時、母に貧血予防のお話しを行う。初めは、学校でも話は聞いているからとあまり興味を示さなかったが、鉄の吸収率UPのポイントや吸収のよいヘム鉄・吸収率のわるい非ヘム鉄についての話をすると興味を示した。

成長期のため、鉄の必要量が増大するため不足しないように摂取する必要がある。手軽に摂取できる栄養補助食品について紹介。退院後も貧血の状況について、悪化のないように経過をみていきたい。        (勝山祥子)

 

 

<座長総括>

思春期発病で内服開始となり、3年後断薬作業が着手されていた。間もなく再発が確認され、再度治療開始となった。7年後ベーテル初診となるが、自覚できる症状が残存していた。

精密検査のみの短期間の入院であり、全ての問題点を浮き彫りにできたわけではないが、てんかん学習の不足含めて病識が十分に形成されていないことが確認された。治療期間は長いが、目的集中の短期検査入院を2回経験していても、あるいは提供したはずだが、必ずしも自らのてんかんについての学びを十分に深めたとは言えないことが分かった。てんかんの外来ケアでは怠薬問題を管理看護と位置づけていくこととなる。本例は純粋な光感受性てんかんであるので、一般的なてんかん患者とみなさない工夫をこらしたい。 (海野美千代)