・MACBJ MDTB定期症例検討会:2021−Feb
2021.2.26
MACBJ
MDTB定期症例検討会:2021−Feb
第104回:公開版2021−02
(MACB:Monthly All Members Conference BETHEL Japan)
(MDTB:Multidisciplinary Team Approach 多面的ティームアプローチ)
症例:20歳代、後頭葉焦点性てんかん+全般化機制
<看護1・検査>
2021年の第2症例は、単発の、単一の全身けいれん発作で発病した。その後、姿勢を失うことなく、前兆もなく、発作後自覚も欠いて、意識のない状態が約1時間も続き、全く記憶がないという、非常に稀な症状を繰り返していた。てんかんと診断されてもいないので、抗てんかん薬の治療も受けてはいない。
初診では脳波所見としては右後頭葉焦点性の発作波活動が活発に認められたので、てんかんが疑われた。臨床観察と脳波精査のため入院となった。入院後しばらくは発作らしい症状は目撃されないまま経過した。入院後断眠賦活を含めた終日脳波VTR記録では全般性発作波が活発に出現していたが、くだんの記憶がない長い無動状態を説明する、たとえば焦点性発作や欠神発作の重延などを暗示する発作時脳波パターン原型なども見当たらなかった。発作症状の脳波証拠を得ないが、入院期間には制約があり、薬物治療を開始せざるを得ない。
短期効果を判定しやすいヴァルプロ酸VPAが導入され日量600mgで72μg/mlが得られたが、全般発作波の著明な減少を得なかった。経過脳波診断作業中に、再度の発作症状が再発したのでレヴェティラセタムLEVが追加投与となった。その後、発作の再発はなかったが、発作波のほぼ完全な消失が得られたので、退院となった。(Ns石川真弓・Tech小林宏行)
<主治医コメント>
発作時脳波を得ていないので確定診断はない。脳波検査でたまたま活発な発作波が検出され、全般化機制が全面に押し出されていることが知られた特異な症例。たまたま勝負の早いヴァルプロ酸VPAに超早期の全般発作波抑制の効果を得なかった。ラモトリギンLTGでは限られた入院期間で効果を判定することはできないので、レヴェティラセタムLEVを重ねた。LEV 750mg服用一週めの時点で、症例の特異な発作症状が訴えられたが、緊急脳波検査ではあらためて両側後頭葉に活発な棘徐波結合群発を認めた。後頭葉の焦点性活動を発作起始とする証拠である。なお、記憶がない長い無動状態が訴えられており、記憶回路をもサーキットする途轍もない稀な事態を想定するか、あるいは非てんかん発作までを疑うかは、この時点では不可知とする。(Drソガ)
<薬剤>長い無動発作が少なくとも2回繰り返したので、第一選択薬の初期飽和を目標として入院となる。この症例ではカルバマゼピンCBZは24時間ホルター心電図で多少の徐脈があり使いにくい。ラモトリギンLTGのDLSTは陽性であった。選択されたヴァルプロ酸VPA400mgにレヴェティラセタムLEV750mgが追加されで退院の予定であった。この時点で発作が再発したので、体重を鑑みて1500mgまで上げた。よく効いてくれたようだ。後頭葉焦点性発作波も脳波全体に拡がる全般発作波も消えたという幸運な症例だ。(Pharm武者利樹)
<看護2>
ケアにあたる看護師の立場からは、入院生活からは特段の問題点をしてきできなかった。が、神経心理士と作業療法士から、極めて興味深い情報を得ていくこととなった。完璧主義に近いほど生真面目な性格であり、自分の内面を周囲に垣間見せるのは不得意という。入院中ながら、確実にオンライン講習を受けるため、スケジュールを作っていくことに疲れてしまっていた。無理もないことであるが、この側面を外来診療日にどのように聞き出して、必要となる看護ケアー計画を作成できるかが課題となる。医師のてんかん医学診察に加えて、てんかんとともに社会で歩んでいく患者の不安や戸惑いに寄り添うチェックポイントを考えたい。(Ns石川真弓)
<神経心理>
この症例では、入院初期の未治療の段階での検査と、投薬治療が開始されてからの検査を実施した。未治療の時期には、認知機能や記憶の全体的な水準は平均的で年齢相応のラインであるが、言語や聴覚系よりも視覚的な情報処理の苦手さがあることが知られた。治療開始後の検査では、視覚認知や視覚性記憶の検査で正常域の結果が認められるようになった。性格、情動的側面に対する検査では、対人関係の苦手さや主観性、独自性が高い傾向が見られた。その観点で見ると、入院生活にも同様の様子があることが知られた。
青年期発症のてんかんと、自分をオープンにしない傾向、自分独自の世界観が広がりやすいことを考えると、本人がてんかんや発作などの病識をどのように理解し、周りや社会と今後関わっていくかについて、周りから見る以上の苦悩や悩みを抱える可能性も考えられるため、表面の行動や言葉に現れない本人の気持ちを支えるサポートの一つを、ベーテルが提供できることが望まれる。(Psychol阿部佑磨)
<作業療法、生活>
年齢的にも、活動内では自分の意見を言えない、言わない、他者の動向についつい合わせて行動してしまう傾向があります。ランダムな交流内でも、周りの状況を察知し、考え、行動する。こういうスキルを今後磨いていくと、もっと生活しやすく、本人も生きやすくなるのではないかと考えます。
なお、本人へは助言等フィードバックしておりますが、外来等で本人が悩んでいる、行動できない等察知したり、本人からの訴えありましたら、面談を通して心理指示的に助言やアプローチを行って参ります。(有賀穰)
<栄養>
一見問題のないように見えるが、コロナ渦中の生活は不規則。また、週3回の飲酒習慣もあるためか、軽い脂質異常がみられる。もともと家での食生活が不規則であったためか、入院して規則正しい食事をするようになったため、体重が+4kgとなった。低体重だったのが正常範囲となった。退院後の食生活はまたもとに戻ってしまう例が少なくないので、外来受診時には生活状況や栄養状態などの情報を聴取して、適切なサポート助言を行っていきたい。(Nutr勝山祥子)
<医事>
はじめての患者さんは医療費がいかほどかかるのかを知るよしもない。医療費の負担が重荷となることが少なくないので、一般医療費計算を丁寧にご案内したい。また、この方の場合、当院で初めててんかんと診断されたので、外来診療費の軽減などもお知らせしたい。この方が福祉制度の活用を必要とする方かどうかなどは入院時の担当看護師と裏方で情報を集めておく。てんかんと診断され専門治療を継続していくことになるので、こ自立支援医療費助成制度、精神障害者保健福祉手帳の該当非該当、時に障害年金制度など、症状や通院期間に合わせながら、利用できる制度の情報提供を適宜行いたい。また、経済状況なりの家庭事情があるか、そうなってしまっているかどうかなどに気を配りたい。運転免許取得などは外来ナースと協働して情報を提供し、また助言したい。(Cler佐伯さとみ)
<座長総括>
発作回数が必ずしも多くはない未治療の方で、運良く入院観察中に実際に発作が観察された症例である。薬物治療開始とその後の展開は美事な経過となった。闘病を共にする入院中の仲間達が第一発見者となった。どんな状態の発作であったのかをお互いに情報をすり合わせ、この時から意識がなかったんだよねと確認し合った。当人ご自身も医療提供者側からだけではない確かな目撃情報を得て、いわゆる病識を高めることができる機会となった。
各職域からの報告は、病状のみに留まらず多岐に渡る視点で情報が寄せられ、てんかんと共に生きていくことになる行く末を、専門家としてどのように支えていくか、を具体的な対応とすることを討議できた。
発病間もない患者さんが、たまたまベーテルで同じ病の仲間と共に闘病した経験は、個室病室での宣言医療では得られない、今後の人生を支える貴重な時間であったはず。専門ケアを語りながらも、もちろん、病勢が穏やかに経過し思い描いた通りの人生を歩んでいけるのが、単に一番です。 (海野美千代)