・2022/6/24 MACBJ MDTB定期症例検討会(MDTB:多面的ティームアプローチ) 第118 回:公開版2022−6

・2022/6/24 MACBJ MDTB定期症例検討会(MDTB:多面的ティームアプローチ) 第118 回:公開版2022−6

2022/6/24

MACBJ(MACB:Monthly  All Members Conference BETHEL Japan)

MDTB定期症例検討会(MDTB:多面的ティームアプローチ)

第118 回:公開版2022

 

要約 

症例       10代男性

診断       小児欠神てんかん

基礎疾患     なし

成因関連     なし

てんかん発病   3才

てんかん発作型  欠神発作

てんかん症候群

大脳MRI所見   特記所見なし

発作時脳波    前頭~全汎性に3Hzの棘徐波複合の出現

間欠時脳波     覚醒時に前頭優位に棘徐波複合が数回みられる

てんかん外科適応 なし

入院理由     行動問題の確認

発作抑制予測   発作抑制可能

生活上昇期待   行動問題の改善により穏やかな人間関係の獲得可能

症例検討理由   発育上抱えた問題点を知り必要な支援を探る

外来看護管理   社会生活上の諸問題を早期にキャッチし次に繋ぐ

地域支援役割   教育委員会等の学校関係者の支援に繋げていく

身体的合併症   なし

 

てんかんケアのキーポイント

1、てんかんの精密診断作業を進める

2、日常生活行動に関する問題点の洗い出し

3、学校問題に関し、担任や地域のコーディネーターと調整を図る

 

<看護―入院>

1 今回の入院理由

発作症状確認と生活行動面の悪化問題により観察・精査入院となった

2 てんかん病歴

3歳保育園の遠足から帰宅したところ突然首を左に傾けぐるぐると周りながら歩く様子が20秒、母の呼びかけに反応なく、体を押さえて動きを止めたという。口唇チアノーゼ、意識消失、口から少しずつ泡を吹き、眼球上転15秒見られた。QQ搬送となり、意識が戻ったのは病院で、点滴を受けている時であった。後日説明とのことで帰宅した。

脳波検査を受け、結果を聞く予定の日に、保育園で急に硬直し再びQQ搬送され脳波検査を受けることになった。後日小児科受診し、脳波の結果てんかんの診断を受けた。発作波出現ありとのことで、セレニカ処方となる。その後3カ月に1回通院、年1回の脳波検査でフォローとなっていた。

5才時に、呼名反応なく流涎、脱力、眼球上転ありQQ搬送されている。その後、紹介にてベーテル初診となる。約1ヵ月後、脳波精密診断作業目的にて、第1回目のモニタリング入院が計画となった。

 

入院1回目:脳波モニタリング検査にて欠神発作波頻発に出現あり、小児欠神てんかんの診断をうける。VAP300mgにて血中濃度;39.6と低値のため400mgに増量、ザロンチン追加され退院。

2回目;精密検査入院。イスから崩れ落ちる発作確認された。脳波検査にて欠神波は見えない状況、ごく稀に左前頭に異常波を残していた。VAP600mg、LTG50mgで退院。

3回目;最近の発作は2022年2月睡眠中右偏視、ハアハアと呼吸し動

悸症状あり、生活行動面(ゲーム依存・暴れる・登校嫌がる等)

悪化問題となり観察・精査入院となった。

入院看護評価

これまでの入院で過呼吸様症状が確認されているが、今回生活行動面での悪化がメインでの入院となっている。ベーテルでの集団生活で規則正しい生活を獲得し、人とのつきあい方を学ぶ機会となれば幸いと考え日課表作成に取り組んだ。自ら毎日の行動を振り返り記録することにも取り組んでみた。生活の中できる事できない事の確認作業を一緒に行い、できたらどんなに些細な事でも褒めるを繰り返すという看護支援を継続したところ、これをやってみたいと自ら手をあげ、徐々にではあるが洗濯を始め、できる事が増えてきている。しかし、集団に入り落ち着いて活動することができていない。他患者さんとの人間関係が上手くいかないと、周囲が調整に入ろうとしても全く聞き入れる状況になく、自分自身でもどうしようもない状況に陥り、歩き回る寝転ぶじだんだを踏む、物に当たるを繰り返す様子がしばしば見られている。ある程度落ち着くまで見守るしかない状況であった。

1対1の人間関係を好む傾向がある。が、毎日継続した学校との朝のリモートも30分を確実に実行できた実績がない。自分の顔も見せようとしない彼が自ら参加しようと取り組んでくれるのをじっと待っているようであった。終業式に間に合うように退院計画を考えたが、私たちは、この短期間で多くの問題点が表出してきた彼の問題を、解決できる手段を探しあぐねている。

 

治療経過に関連する看護計画

入院中過呼吸様の発作症状みられた。一人行動苦手で常に誰かに関わりを持ちたがる。遊びや日常生活を通じて感情の表出する機会をつくり、受容的共感的な態度で接し、思いを受け止め、要求には可能か不可能か、善悪をはっきり伝える・無理に考えを強要せず言葉を換え引き出す。勉強する環境作り、日常生活の行動や状況から「何を伝えたいのか」「何をしたいのか・して欲しかったのか」を客観的に判断し実践できる事は行いますが、感情的にならずに対応が必要と考え現在まだ入院中で継続実施しているところである。

(担当看護師―猪又松子)

<生活介護ケア>

今回の症例は生活療法が必要な症例である。単独入院2回目となるが、分からないことは、スタッフに聞くことができる。特定の小集団内であれば口数多く接することができる。が、やや距離の近さが気になるところである。相手の気持ち、様子を察することが不得意であり、指摘を受けることも多々ある。良くも悪くも素直といった印象を受ける。

基本的な日常生活行動(ADL)は自立しているが、入浴や歯磨き、着替えなどの整容、身の回りの整理整頓には声がけが必要である。生活をしていくうちに、年齢が近い患者さんが洗濯をしているのをみて、やってみたいとあり、人生初挑戦中である。

生活介護ケアの目標として、日課表に合わせて行動できるようになるとした。学校では集団行動の練習をする時期でもある。しかし、現時点では集団内での活動意欲には波がある。勉強や活動内容が嫌なときなど、大きな身体と声で、幼児のように全身で拒否する様子が見られる。こちらの声は耳に入らなくなるところがある。まずは、感情をコントロールし、要求を言葉にしていくこと。苦手なことも繰り返すことで習慣化していくことを期待したい。ここでは、スタッフだけでなく、他の患者さんの力を借りて集団で引っ張っていくことが有効であると考える。それには、日課表通りに、本人が混乱しないようにチームが一貫したケアをことが必要である。

次に勉強時間とゲーム時間とのメリハリある生活が重要である。自宅生活では、ゲームに依存的な生活であった。入院生活では脱ゲームを理想とするが、すべてがダメでは窮屈で、反発が生まれる。時間を守る。ヴァイオレンスなゲームはしない。をまず実践していくこととした。今後の生活の変化を評価していきたい。最後に、入院生活で様々な人間関係、活動や作業を通して、失敗や成功体験を積むことを望む。褒められる経験をすることで、自信につなげてほしいと思う。これからの人生、生きやすくなる術を身につける機会であってほしいと願う。自宅へ戻ったとき、本人と家族が幸せであるようにチームアプローチしていきたい。

(介護福祉士―砂金七枝)

<看護−外来>

外来経過

10才時に当院通院再開してから、てんかんの症状は落ち着いていたが、学校に行きたくないという本人を母が車で校門まで連れて行き、数人の先生に抱えられて登校するという日々が続いていた。外来受診の際は胸が痛いなどの身体症状の他、母よりてんかんで暴れて人の物を壊す、ゲーム依存、極端な偏食など行動上の問題に対する相談を受けていた。以前受診していた病院では、精神薬を増量していたが、その効果は実感できない様子であった。

その一方本人の待合室での様子は、終始ゲーム機を手放すことはなかった。看護師はどうにか心を通わせようと質問するのだが、それに対して目を合わせることはなく、オンラインゲームの相手に「このー!」と急に大声を出したりして、自分はゲームの世界の住人で現実は関係ないような態度であった。

4月に新学期が始まると更に行動上の問題は激しくなり、モップで自宅のガラスを割ったり、姉を叩いたりという行動がみられ、母より「もう限界です」と言う言葉が聞かれ憔悴した表情が見られた。そこで医師より、「2月にてんかんの発作のような症状があって経過を見ていたが、入院による長時間脳波検査を計画しましょう。母のレスパイトの効果も期待したい。」と話あり。母快諾、本人も表情が明るくなり入院に対して積極的な様子が見られた。当院入院は5才と10才の時に1回ずつ、今回11才で3回目となる。

(外来看護師-高橋香苗)

<検査>

1.画像検査

頭部MRI検査:頭部MRI及び頭部頸部血管写MRAにも特記なく、MRI血管灌流量検査ASLでも特記なし。頸部MRIも特記なし。

2.脳波検査

ベーテル初診時の脳波検査では両側前頭~全汎性に2.5~3Hzの棘徐波複合が見られていた。また、24時間VTR脳波検査中ではベット上でぼんやりする様子や食事中テレビを見ながらぼんやりする様子があり、3Hzの棘徐波複合の出現があった。また睡眠時でも3Hzの棘徐波複合が出現していた。

その後2年間は、仙台駅前クリニックベーテルでルーチン脳波を行っていたが、覚醒時及び睡眠時共に3Hzの棘徐波複合の出現あり。覚醒時では主に過呼吸賦活中に出現していた。

昨年2回目の検査入院時の脳波所見では、覚醒時で特記所見なし。睡眠時は前頭に鋭波~鋭徐波複合が見られた。初診時、睡眠時に出現していた3Hzの棘徐波複合の出現は見られていない。今回3回目の入院では、覚醒時に前頭優位に棘徐波複合が数回見られている。睡眠時では特記所見なし。

 

脳波所見

発作時脳波:前頭~全汎性に3Hzの棘徐波複合の出現。

発作間歇時:以前は覚醒時には特記所見はないが、睡眠時では棘徐波複合の出

現が見られた。最近では覚醒時に前頭優位に棘徐波複合が数回みられ、睡眠時

では特記所見はない。

3.神経生理検査

MLR:特記所見なし。

VEP:全体的にやや遅い。

SSEP:左右差なし。

4.その他

一般尿/血算 /生化学検査:肝機能数値が高値。

24時間血圧:やや高め。

眼振図:異常なし。

腹部超音波検査:軽度脂肪肝がみられます。

(検査科―菊池崇大)

<薬剤>

3歳:保育園の遠足から帰宅したときに初発。救急搬送されるも、点滴のみで

帰宅。1か月後:脳波検査を実施しててんかんの診断となりVPA顆粒の

処方となる。

5歳:前医よりベーテル紹介となる。VPA顆粒は300mg

服用中。1か月後:1週間の精査入院。VPA顆粒300mgの血中濃度

は39.69と低め。小児欠神発作なのでEMS100mgを導入、更にVPA

を400mgに増量して退院となる。

7歳:外来にてVPAを440mg、EMSを400mgまで増量更にLTG8mgを

導入。

9歳:外来にてVPAを480mg、LTGを24mgに増量しEMSは中止とした

10歳1か月:外来にてVPAを550mgに増量。1週間後:二度目の入院と

なる。VPA顆粒550mgの血中濃度は56.92。その後、剤型を錠剤

に変更しVPA600mg、LTG25mgと調整した。更にLTGを50mg

に増量して退院とした。

11歳:三度目の入院となる LTGは75mgとなっていた。食欲旺盛で肥満気

味であり、ゲーム中毒で学校へも行けなくなっていた。VPA600mgの

血中濃度17.79と低く怠薬が疑われた。LTG75mgの血中濃度は2.7

であった。

若干の知的障害はあるものの、ほとんど学校へ行っていないので、指を使えない二桁の足し算や分数の計算はできない。生活がゲームやネット動画中心になっていて、両親もそれに介入できない傾向がある。おやつは炭酸飲料や果物の缶詰を一度に複数個食べる習慣になっている。生活のリズムの改善が強く求められる症例である。

 

略語 VPA:バルプロ酸ナトリウム EMS:エトスクシミド LTG:ラモトリギン 血中濃度の単位:㎍/mL

 

<主治医コメント>

まず、この方のてんかん病歴ですが、典型的な小児欠神てんかんではありません。初発年齢は3歳2か月と4-7歳あるいは学童期とされる発症年齢よりも早く、非典型的です。また初発発作は、ぐるぐると歩き回る自動症を伴う意識減損発作で、発作中に眼球上転と口唇チアノーゼにも至り、搬送先に到着後まで意識は回復していません。またその1か月後には全般強直発作を起こしています。発症当初、短く(30秒以内)、1日に何度も出現するという小児欠神てんかんでみられる定型欠神発作は目撃されていません。前医で治療が開始されていますが、典型的な全般性3Hz棘徐波複合群発も初期には認められなかったとのことです。VPAでの治療を継続されていましたが、5歳になり、脳波で全般性3Hz棘徐波複合の欠神発作波と、~15秒程度の欠神発作が月単位で出現しました。VPAを増量されましたが、欠神発作が出現し始めてから4か月後、20分ほどの意識減損を伴う脱力発作があり、ベーテルの受診に至ります。ベーテル初診時には典型的な欠神発作と欠神発作波が確認されました。1回目の入院を経て、VPA+ESM+LTGで治療をすすめ、7歳以降、欠神発作は脳波検査での過呼吸賦活時にみられるものの、普段は気がつかれなくなりました。ただし、欠神発作が目立たなくなった半年後から、睡眠中に過呼吸様の呼吸となり反応がないなどの症状がありました。非典型的な経過から、GLUT(グルコーストランスポーター)1欠損症などの鑑別を他院小児科に依頼しました。基礎疾患の存在は否定され、いちどそのまま小児科に通院されて発作も落ち着いていましたが、2年後に再び、椅子からずり落ちる発作が出現し、ベーテルの通院を再開しました。2回目の入院では、以前にみられていた欠神発作・欠神発作波は消失し、てんかん性突発波の出現も稀となっていましたが、3回目の入院では以前よりは短く不規則で形の不明瞭な3Hz棘徐波複合群発または高振幅徐波群発を稀に認めています。頭部画像検査は異常ありません。活発な欠神発作は抑制されていますが、今後の減薬は慎重に判断する必要があります。

今回の入院のきっかけは、1年ぶりに発作を疑う症状が出現していたことと、この1年で行動面での問題点が表面化し、学校や家庭での対応に困り感が出てきたことです。てんかんを持つ小児には、神経発達症や知的発達症の併存が多いことが知られています。私は、ベーテルへの再通院がはじまってから主治医となりましたが、就学前の1回目入院時の記録から、神経心理検査結果の数値だけではない、当時の様子を知ることができました。現在は乱暴な言葉遣いや態度、ゲームへの依存などが目立っていますが、時系列での変化を追うことが、その背景になるものがあるのかなどを評価する材料となります。また、てんかん病歴と併せて追跡ができました。外来診察では、なかなか本人の思いや困りごとを本人の口から聞きだすことができませんでしたが、ご家族と離れ、普段とは違う環境ではあるものの、病棟で様々な人と関わりながら1日を過ごす入院中の本人の様子を確認できることが大きな情報となります。感染対策の制約はあるものの、ご家族とも時間をとって話を聞く機会を設けることができています。家庭生活の様子や、家族との関係、学習面の評価など詳しく聞き、困りごとのピックアップと、その解決の糸口になりそうな点(環境調整や社会的資源の利用など)を具体的にご家族にフィードバックします。時間はかかりますが、身近な課題をひとつひとつ提示し共有することが、本人・家族の支援につながるものと思います。

(Drナミ)

<神経心理>

この症例は、べーテルを初診した段階から心理検査を実施し、経過を追いかけてきた方であった。当初から知的能力や発達、言語能力の検査を各時期に行ってきたが、そのほとんどが境界域からその下の水準で、認知発達の苦手さ、低さが考えられる。実際の学校生活でも、勉強になかなかついて行けず、学習に対する苦手意識や拒否感も形成されていて、対人関係や家庭生活でもトラブルがあり、適応できない経験が積み重なってしまっているようだった。

しかし、検査結果の中には、境界域を超える数値が出る時期があったり、苦手で低い結果だったものが急に上昇していたりと、結果自体の不安定さも見られ、その時々の気分や感情、やる気や落ち着きなどにかなり左右されやすい傾向も感じられた。行動的な問題や学校、家庭環境への不適応は、能力的な要因ももちろん考えられるが、それ以外にも、経験してきた事の少なさや失敗を恐れる不安な気持ちがあると考えられ、自己評価の低さに繋がってしまっているようにも感じられた。

今回の入院では、ご家族の方とお話する機会も多く、家庭での過ごし方や本人への対応、取り巻く環境の悪循環に気づかされる場面がある。本人への支援や関わりと共に、ご家族や周りの環境を整えていくという二つの方向のケアが必要であり、改めて家族のシステムの重要さやその限界、そして一対一だけでない集団でのてんかんケアの関わりが大切だと感じさせられるケースであった。

(神経心理士―阿部佑磨)

 

<作業療法・生活>

3歳でてんかんを発症し、ベーテルに5年通院している10代の小学生です。今回の入院目的は、今年に入り朝起きられずきちんと登校できないことや、本人の行動問題に対する家庭生活での関わりに、家族が限界を感じての入院希望によるものでした。このような問題を抱えての入院でしたので、日常生活は皆と同じようには進みませんでした。

OTとしての取り組みは、学習面のサポートと、集団での活動への取り組み方、メリハリをつけた生活を送る(ルールを守る)、の3点に重点を置き行いました。

まず第一に学習面のサポートです。学校がある間は朝のミーティングに参加すること、その後に個別での学習の時間を設けました。「なぜ自分だけ勉強しなければいけないのか」と大きな声を出し拒否する様子も見られました。彼を学習する姿勢に向かわせることに毎日必死になっていました。実際に学習に取り組み始めると集中して行えるのは長くても30分程度でした。一度、彼が「学校では普通にできるんだけど、ここだと何かソワソワして集中できないんだ」とお話してくれたことがあります。さらに、学校では友達の目があるから、騒いだり駄々をこねるような行動はしない、と話していました。ベーテルに居る自分と、学校に通っている自分、うまく使い分けていたのでしょう。また、学力的にも実学年の問題は難しくやりたくないと回避的で、取り組めるのは小学3年生レベルの問題ばかりでした。また、本を一冊読み、感想文を書いてみることも行いました。苦手だと話し、つっかえながらも、数週間かけて何とか一冊読み終えました。スタッフの助言を受けながら取り組み、2行ではありましたが、感想文も書くことが出来ました。その他、OTでは教科書的な学習だけではなく、経験を重ねていくためにも工作や園芸などの、楽しみながら行える活動を行いました。しかし、彼は自分で見通しを立てることが苦手で、工程数の多いものや自由度の高いものは、一人で取り組む事が難しく、途中で投げ出してしまう様子が見られました。彼には時間や作業量などを明確に提示してあげることが必要なのだと分かりました。

第二に、集団での活動への取り組み方です。入院してすぐの頃は病棟生活に慣れていなかったこともあり、集団内でみんなと一緒に活動に参加することが難しく、少し離れたところで限定された方との空間で取り組んでいました。作業能力的にも出来ることが限られており、皆と同じ作業をすることは難しい様子でした。そのため、関わりとして、まずは出来る事を役割として彼に依頼することにしました。折り紙を等間隔に切る、などの簡単な作業でしたが、彼はとても意欲的に取り組んでくれました。「次は何色?」などと積極的な発言も聞かれるようになりました。その中で、スタッフを通して限定的な関わりから、集団内の他の仲間たちへの交流につながるような働きかけをしました。すると徐々に、自分から集団内での活動に入れるようになり、関わりも増えていきました。OTではレクリエーション活動を好んでおり、とても意欲的に参加してくれていました。しかしグループでのディスカッションなどが出来ず、協業することが難しく、彼一人の作業となることが多くありました。

第三に、メリハリをつけた生活を送る、です。入院中の様子を見て、短期決戦ではどうにもならないと判断され、学校に戻らず長期休みを利用しての入院期間延長となりました。まずは彼の好きなことであるゲームの時間をしっかりと定める事、それとともに学習の時間も周知し、「やるべきことをやらないと、好きなことはできない」とルールを定めました。すると、やりたくないからやらない、ではなく、目的のためにやるべきことをする、という姿勢に変わったように思います。しかし、この方法でも彼の要求はエスカレートし歯止めがきかず、要求が満たされないことで行動化する様子も見られました。行動問題が少しでも改善できればと薬物治療が展開されました。しかし期待通りに効果を示す様子が見られず、更に薬種を変更して対応しているところです。

関わりの中で、彼が抱えた問題点のすべてに対して「明確に提示すること」が必要なのだと分かりました。作業や学習に対しては時間や作業量を明確に提示する必要があり、普段の生活では要求に対しての線引きを明確に提示する必要がありました。

彼には、ベーテルに入院している間、日常における様々な作業や活動に参加し、たくさんの経験をしてもらいたいと考えています。とても好奇心旺盛な彼は、誘導次第で何でも取り組もうとしてくれると思います。その中で、ご家族や私たちスタッフ、本人も気づかなかった新たな発見があると幸いです。そして、彼が、自分の将来を自分で描けるように、まだまだサポートしていきたいと考えています。

(作業療法士―菅本沙希)

<栄養>

症例は12歳、小学6年生男児である。大家族の末っ子として育ち、両親に甘えたい盛りということもあり、入院前の食生活は本人の要望どおり。といった状況であった。幼児の頃に入院した時には肥満ではなかったものの、食生活習慣はかなり乱れており、家族の食事時間に合わせて食べていたため、昼食と夕食の時間が近いということから夕食を摂ることができず、その後お腹がすいてしまいおやつを食べるといったことを幼児のころからしていた。現在は、家族と時間をずらして食べるためそういったことはないが、偏食がちで母も本人に合わせて与えていたという問題点があった。特にジュース類の摂取量・頻度が多く、中性脂肪の上昇もみられたため入院中の食事療法について、多面的アプローチが極めて重要であると考えられた。

入院後の様子を観察すると、ジュース類・果物の缶詰・お菓子・カップラーメンの持ち込み、差し入れがありそういったものを止めることからはじめる必要があった。生活習慣もゲーム依存症、規則を守れないという状況にあり。本人の状況を変えるには、家族の協力も重要であると考えられた。すべてを一気に変えるのは困難であるため、まずはジュースを飲まないようにする、入院中の食事に慣れていくということからアプローチしていくこととした。

栄養計画として、入院中にできるようになっても家庭に戻ってからの状況によってまた元通りになってしまう可能性があるため、家族を巻き込んで意識の改革をしていく必要があると考えられる。そのためにも入院中でしっかり実績を作り、その上で入院中のような日課で過ごせるような状態に持っていけるような筋道作りが必要である。入院中に本人の意識が少しでも変わり、今後より良い生活を送っていくことができるように、各科と協力してサポートを続けていく。

(管理栄養士―勝山祥子)

<医事>

仙台駅前クリニックベーテルで初診。一度は病院を離れた経歴あり、再度クリニック受診し、本院では3回目の入院である。今回の入院では限度額認定証と子ども医療費受給者証をおもちで、この方の市町村は18歳高校生まで入院において適用となるようだ。

専門家として、入院が決まり家族の方に、受給者証のほかに、加入している健康保険から限度額認定証の交付を受け、子ども医療費受給者証と併せて提出するようにご案内している。子ども医療費受給者証に助成される限度があり、高額療養費相当分の自己負担額が生じる場合があると伝え手続きを進めてもらった。この方の市町村は令和4年4月から対象年齢を18歳到達年度末日まで拡大し、医療費制度が改正されている現状があるので随時情報を取得し、CLと本院で統一した情報共有ができるよう努めていきたい。これからの通院と年齢の過程において患者さんにとって一番良い福祉制度のご案内を率先してご案内していきたいと思う。

(医事科―横山あみ)

<座長総括>

今回の症例は、3才発症で5才時にベーテル初診し、2度の精密検査入院を経験し、今回3回目の入院となった11才の少年である。7才から10才の期間、他院にて診療継続されていたが、行動問題が表面化し相談窓口を求め再度ベーテルの診療を希望し、駅前クリニックベーテル受診となっていた。家庭内での療育に限界を感じた母の判断により、現在抱えている問題点を、入院という形態でしっかり確認する目的で、ベーテル入院となっている。

入院後の彼の生活は、まさしく問題だらけであった。眠気もありスケジュールに合わせて生活が仕組めない、食生活問題、ゲーム依存、学業問題、行動問題と多岐に渡り、通常のナース担当の看護ケアの領域を越え、全職種で支援に当たる必要性があった。最大の難題は、イヤだ、なんでと言い出したら、まるで幼少期の駄々っ子のようにごね始め、全身で長時間に渡り物に当たる行動をとるため、理由を説明しこの行動が鎮まるまで見守りが必要なことであった。

私共が関わっていない4年の間に抱えてしまった問題の大きさに、初めは手も足も出ず振り回された。その後、作業療法士の力を借りて毎朝の学校とのリモートミーティングに参加させることにしたが、現状では「あたりまえ」の参加状況ではなく手を焼いている始末である。専門性を発揮する処ではなかった。

毎日毎日、彼中心の行動に振り回され、何処で対処不可能な事態が発生するかわからず、一たび行動問題が発生しようものなら、周囲の患者の皆さま方も巻き込み、我々の多くの看護ケア支援が必要となる。

入院当初、学業問題への取り組みとして、1冊の絵本を毎日読んでみることにした。真面目に取り組み3-4ページ進むことができる日もあれば、1ページも読むのが嫌だとゴネル日もあった。「何で読まなきゃいけないの」と泣く日もあったが1冊の本を全て読んで感想を書くことを目標に頑張った。

最終的には、OTの力も借りて2行の感想を書いた。この取り組みに3週間を要している。後にお母さまから「この子は本を読むのが大嫌いなんです」と聞かされた。私は、本の読み聞かせは、お子さまの成長に欠かせないものだと思っている。大人が読み聞かせながら「どうしてだろうね」とか「かわいそうにね」よか「良かったね」と相槌を打ちながら共に本の中で伝えたいことを共感していく作業は、お子さまの心を養い文章能力に繋がっていくと考える。

彼にも、入院中に皆さんの前で朗読をする機会を作りたいと考えたが、この調子ではそこまでたどり着かないであろう。とにかく、親元を離れ24時間来る日も来る日もベーテルで過ごし、自分の思い通りにならない時間をどう乗り切るか、彼の未知の世界への挑戦に、我々スタッフは振り回されながらも付き合ってみることになる。

 

<ケア・イニシアチブとその具体>

これまでの成長過程に於いての療育担当者は、全面的に母であった。彼の成長に合わせて、学校の担任・スクールカウンセラー、医療機関、県教育委員会、児童相談所等さまざま頼りながら問題の改善に当たってきた経過があった。この間の詳細な事情に通じない我々は、一から、彼をさまざまな視点から行動観察し、又は精密診断作業から評価していくことになった。

そして、彼をどう取り扱うべきか悩む母の問題点に行き着く。本人は、入院という形態で、一時母の元から離れさまざまな人間関係の中で、これまでに経験したことのない関係性から多くを学んでいくはずである。しかし、退院後の最終的な受け皿である母の悩みを解消するという難題があった。療育の過程で発生する諸問題の解決に詳しい方に相談してみることにした。

時間を割いて指導を受けることができたが、その内容は、今が今の問題解決に留まらず、将来を見据えた地域ぐるみの支援体制に乗せていく必要性が語られた。私の想像をはるかに超えた社会資源の活用であった。改めて、子どもを育てるという意味の大きさを実感したところである。

母がこれまで相談してきた機関の対応では、不十分であることは明白な事実であり、次の一手を、私たちが構築していくことが必要であるということである。入院で知り得た彼の問題を、私たちと同じ視点でご家族にも共通の理解としてもらう必要があった。しかし、このコロナ問題により面会制限が加わり、リモートでの対応となり、この作業を思うように進められなかった。母や家族が抱えている問題などに踏み込むには、更に時間が必要と判断された。

今後の課題を整理してみると、まずは学級担任からの詳細な情報交換に努めること。進学問題についての方針決定作業に参加する。療育に父の積極的参加を求めていくとなる。

行動問題は、彼自身を苦しめている。自分ではどうしようもないのである。医療的に、彼が抱えた行動問題への治療を進めることで、関わる皆さまに愛される存在となれれば幸いなことである。地域資源の活用は、その後に必要とされる状況を判断していくこととする。

(海野美千代)

 

 

 

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